脳で合成される「母性のホルモン」オキシトシンが、新たな局所神経機構‘ボリューム伝達’を介して脳から遠く離れた脊髄まではたらきかけ、オスの交尾行動を脊髄レベルで促進していることがわかった。岡山大学、神奈川大学、川崎医科大学、富山大学、国立遺伝学研究所、米国エモリー大学、英国オックスフォード大学の国際研究グループが解明した。
勃起や射精などのオスの性機能を調節する性機能センターは脊髄に存在することがわかっているが、脳からどのようにコントロールされているのかはこれまでわかっていなかった。今回、本研究では、母性に深く関わる神経ペプチドホルモンであるオキシトシンをオスのラットの脊髄に投与すると性機能センターが活性化すること、逆にオキシトシンのブロッカーを投与して脊髄におけるオキシトシン作用を阻害すると射精能が減衰することを突き止め、オキシトシンがオスの性機能センターを調節していることを明らかにした。
さらに、脊髄におけるオキシトシンの作用は、ニューロン間のシナプス結合を介した‘配線伝達’ではなく、脳に存在するオキシトシン・ニューロンが遠く離れた脊髄にまで軸索を伸ばし、オキシトシンを局所的に放出・拡散するという新規の脊髄内局所神経機構‘ボリューム伝達’を介したものであることも見出した。シナプスによる配線伝達が有線LAN(構内ネットワーク)に代表される‘Ethernet’だとすれば、ボリューム伝達は‘Wi-Fi’に似たシステムだとしている。
オスの性機能を制御する脳-脊髄ネットワークの動作メカニズムを明らかにした本成果は、将来、ヒトにおける心因性の性機能障害の根本的な治療法開発にもつながる可能性がある。