「教育の明星大学」のキャッチフレーズで知られ、7学部11学科9コースに加え通信教育部を擁する明星大学。人文系では、2008年に人文学部心理・教育学科を母体に教育学部を新設するなど改革を進めてきましたが、2017年度には、50年の歴史を持つ人文学部心理学科を、8番目の学部となる心理学部へパワーアップする予定です。おりから、心理学系では初の国家資格となる「公認心理師」も創設され、新学部に寄せられる期待は一段と高まっています。今なぜ心理学部なのか、受験生へのアドバイスともあわせて、学部長予定者の境敦史先生にお聞きしました。

心理学とは?心理学の対象は「心」ではない

 新学部について語る前に、そもそも心理学とはいかなる学問かについて、あらためて確認しておきたいと思います。

 一般的に、心理学の対象は「心」だと考えられていますが、まずここに大きな落とし穴があります。「心」は「個人が秘めている主観的な思い」といったニュアンスで理解されることが多いので、心理学は、他者の主観を暴こうとする怪しげな学問だと誤解されてしまいます。さらに、「個人に秘められた悩みを解決するカウンセラーになりたい人だけが学ぶもの」という心理学へのもう一つの誤解もまた、心理学を「心」についての探究と見なす考えから生まれています。

 しかし、仮に「他者の主観を暴きたい」という興味にかられて心理学科に入学しても、その興味が充たされることはありません。心理学の対象は「心」ではなく人間であり、その目的は、他者の主観を暴くことなどではないからです。従って、受験生が心理学に対してこのような誤解を抱いたまま心理学科に入学してしまうと、大学で学び始めてから実際との違いに気づかされ、悩むようなことにもなりかねません。
 
 「心理学」とは英語のpsychologyの訳で、ギリシャ語のプシケー(Psyche:心)とロゴス(Logos:言葉・論理)が語源です。プシケーは、日本語では「心」と訳されることもありますが、元々は生きている身体を意味し、哲学者アリストテレスも「生きて周囲の世界に働きかける可能性を備えた身体」と定義しています。現代人の多くが抱く、「心は身体に宿るが、身体とははっきりと区別されるもの」とか「個人が秘めている主観的な思い」という通念とは異なり、私たちの周りの世界、つまり《環境》と切り離して「心」について語ることはできないのです。プシケー(心)は、本来、「環境や他者と関わりながら生きている人間」を指します。従って、心理学とは、《環境や他者と関わりながら生きている人間に関して科学的に探究し、その成果を社会の実地の問題の改善や解決に役立てる学問》である、と私たちは考えています。

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