京都大学大学院農学研究科の桂圭佑教授、岐阜大学応用生物科学部の山口友亮助教らの研究グループは、50年間(150作)にわたる水稲連続栽培のデータをAIに学習させ、収量が変動する要因を解明した。
フィリピンの国際稲研究所では、1962年から現在まで三期作のイネを多様な肥培管理で栽培し続けている。この世界最長の長期連用栽培試験は、人口増加と気候変動下でのコメ生産の持続性を検証できる世界唯一の資源である。
本研究グループは、1968年から2017年までの50年間、150作にわたるフィリピンでの連続栽培の詳細なデータをAIで解析することで、水稲収量に関与する要素の解明を試みた。気温・日射量の気象要因、窒素施肥量、品種交代の頻度、病害の発生リスク等と収量の関係を、乾季作・前期雨季作・後期雨季作の作期別に明らかにしたという。
その結果、日射量や窒素施肥量がすべての作期に共通する収量維持の鍵として特定された一方で、作期によって異なる環境要因が収量を左右することもわかった。乾季作では生殖成長期・登熟期の夜温、前期雨季作では栄養成長期の気温、後期雨季作では病害リスクや同一品種の連続作付けがそれぞれ収量変動に大きく寄与していた。また、1970~80年代にみられた収量低下には窒素不足だけでなく夜間の高温も影響していたことが新たに判明した。
本研究により、乾季作には高温耐性を持つ品種育成、雨季作には高湿度・低日射条件に強い品種開発や頻繁な品種更新が必要であることが示された。従来の統計手法では見えなかった長期的かつ複雑な収量変動の要因を明らかにした成果であり、アジア全域2,200万ヘクタールの灌漑稲作地帯における気候変動への適応や食料安全保障に資する知見として期待される。