東京農工大学の泉川桂一助教と高橋信弘教授、首都大学東京の礒辺俊明特任教授らの研究グループは、RNA代謝異常にかかわるCHTOPと呼ばれるたんぱく質とRNAの結合で生じる複合体を最新の質量分析法で解析し、CHTOPがメッセンジャーRNAを分解することにより、発現量を調節していることを突き止めた。CHTOPの増加が悪性脳腫瘍の形成を促進するだけに、発症メカニズムを解明したといえそうだ。
東京農工大学、首都大学東京によると、CHTOPは悪性脳腫瘍の形成や遺伝性貧血症の調節にかかわるたんぱく質として知られる。CHTOPが結合したメッセンジャーRNAを分解することで細胞内濃度を調節していることが分かった。正常な細胞ではこのメカニズムでCHTOPの量を一定に保っているが、悪性脳腫瘍ではこれが破たんし、CHTOPの量が異常に増え、増殖を促進していると考えられている。
研究チームでは、CHTOP発現量調節のメカニズムが明らかになったことで、発現を阻害する薬に開発により、悪性脳腫瘍治療への道が開けたとみている。さらに、この発見が遺伝性貧血症の治療薬開発に結びつくことも期待されている。遺伝性貧血症は死に至ることもある病気で、血液中で酸素を運ぶヘモグロビンの遺伝子が変異することが一因となる。
ヒトのヘモグロビンは胎児と成人で異なる遺伝子から作られる。成人で働く遺伝子に異常があっても、胎児期に働く遺伝子は正常で、CHTOPが成長過程で発現量を増加させると、胎児期に働く遺伝子を成人で働く遺伝子に変換することが知られている。今回のメカニズムを活用し、胎児期の遺伝子に正常なヘモグロビンを作らせるようにすれば、治療が可能になるという。