少子化の進む中、定員管理の厳格化に加え、東京23区内での定員増の10年間の凍結など、小規模大学や地方の大学へ配慮した施策が行われる一方、国立大学のアンブレラ方式、設置者の異なる大学の連携・統合など、大学再編の足音も聞こえる。こうした中、危機感を募らせる地方私立大学の中には、積極的な改革を通じて、厳しい冬の時代に向けて力を蓄えようというところも出てきた。静岡市に本部のある学校法人常葉大学もその一つ。2013年に3大学、大学院を1大学10学部19学科※1大学院4研究科6専攻に統合、2018年には新キャンパスを開設してキャンパス再編をほぼ完成させた。木宮健二理事長に、常葉大学のこれまでと今後の展望をうかがった。

※教育学部(初等教育課程、生涯学習学科、心理教育学科)外国語学部(英米語学科、グローバルコミュニケーション学科)、経営学部(経営学科)、社会環境学部(社会環境学科)、保育学部(保育学科)、造形学部(造形学科)、法学部(法律学科)、健康科学部(看護学科、静岡理学療法学科)、健康プロデュース学部(健康栄養学科、こども健康学科、心身マネジメント学科、健康鍼灸学科、健康柔道整復学科)、保健医療学部(理学療法学科、作業療法学科)

 

私の大学論

 およそ23年の教員生活と、16年に亘る経営者としての経験から、大学にとって最も重要なのは、歴史と経営力だと考えています。
歴史には、卒業生が社会に出て、これまでの慣行で言うところの定年を迎えるぐらいの期間が最低限必要です。それで初めて、卒業生、つまりその大学の教育の成果に対して、社会や大学のステークホルダーからの評価が定まってくる。

 もう一つは経営力。スケールメリットと言い換えてもいいかもしれません。国立大学とてこれは同じ。よりよい教育・研究のためには、人だけでなく建物や施設・設備にもお金がかかりますから資産や収入は多い方がいい。であれば、よほど高額な授業料や寄付金を集めるのでなければ、ある程度のスケールも必要です。

 この点から本学並びに他の静岡県の大学を見てみると、他県に法人本部のある日本大学や東海大学、医療法人が主であるものや国や県が設置するもの以外では、最も歴史のあるのは本学。しかし本学が最初に教育学部を開設してから、まだ38年しか経っていない。当初の卒業生がようやく現役を引退する頃で、それ以外の学部や他大学の歴史はさらに浅い。

 同じ括りで、経営力の指標とも言えるスケールについて見ると、学生数では本学がトップで、その数は他の私立大学の合計とほぼ同じです。ほとんどが中規模以下や小規模の地方私立大学が、今後訪れるであろう厳しい状況の中でどう生き残りを図り、将来において今以上の存在感を示すことができるか。本学に課された使命は重いと感じています。
 

2013年の《大学統合》に続いて、2018年にもキャンパスを再編、NEXTOKOHA宣言も

 本学園は、1980年常葉学園大学(教育学部)を県中部の静岡市に開設しました。1988年には西部地区に常葉学園浜松大学(経営情報学部、1998年浜松大学に校名変更)を、1990年には東部地区に常葉学園富士短期大学を開設、2000年には富士短期大学を富士常葉大学(流通経済学部と環境防災学部)へ改組転換しました。

 三拠点を展開することで、東海道の廊下と言われ、東西に長い静岡県全域をほぼカバーし、どの地区の高校生も本学園を目指してもらえる足場ができました。実際、学生の自宅通学率は長年9割と安定していて、県外へ子どもを出したくないという保護者のニーズには十分応えてこられたと思っています。

 各拠点ではその後、約10年にわたって新しい学部を増設、大学院も2008年の教職大学院など、各キャンパスで開設、展開しました。しかし少子化の進行に伴い、学部によっては、入学者の減少に歯止めがかからないような状況も生まれてきました。

 そこで2013年、常葉学園大学、浜松大学、富士常葉大学を統合・再編し、存続する常葉学園大学を常葉大学に名称変更しました。同時に各拠点にあった大学院も常葉大学大学院に統合、最終的には1大学10学部19学科、1大学院4研究科を開設することになりました。国は廃止する旧2大学を新設するということでしたから、申請書類を詰めた段ボール箱は1回で大型トラック一杯分に、それが何往復もする難事業でした。

 また同年には、短期大学を常葉大学短期大学部に名称変更し、法学部と健康科学部を擁する水落キャンパスを静岡市内に新設、附属中・高校校舎とともに学園全体の顔となりました。2016年には、草薙の工場跡地を取得、2017年には法人名を学校法人常葉大学に改称、2018年4月の新棟完成にあわせて法人本部を移転するとともに、教育学部、外国語学部を瀬名キャンパスから移転させました。あわせて、経営学部、社会環境学部、保育学部を富士キャンパスから移転し、政令指定2大都市(静岡市、浜松市)に拠点を置く4キャンパス体制が完成しました。

 教学面では、次のステージを目指すべく、「NEXTOKOHA宣言」を掲げました。これは、①キャンパスの充実にはじまり、②地域連携の強化、③教育改革の継続、④幅広い研究の推進、⑤つながりの拡大、の5つからなるもので、教育理念の実現に向けた「教学面・管理面の一体化戦略」「教育研究システムの発展戦略」「統合大学(機能)の社会化戦略」の三戦略に基づきます。

 中心となるのが、「トコプロ」(トコプロジェクト)と呼ぶ教育活動。正課の中で学生が、少人数で企業とのコラボや地域との連携などを行うもので、現在は56のテーマに、全学生の半数以上が参加しています。その活動は「地域連携を強化」するだけでなく、体験型、対話型教育を通じて、今社会で最も求められる創造力を育成するなど、カリキュラム改善に始まる「教育改革の継続」にもつながります。またそのプロジェクトの質を支えるのは,大学独自の知の拠点事業などによる「幅広い研究活動」ということになります。

 大学連携や社会連携を目的にした「つながりの拡大」としては、2014年に大学ネットワーク静岡を発展的に改編して発足した「ふじのくに地域・大学コンソーシアム」(21大学等21自治体2公共団体が参加)への積極的な参画などがあげられます。
 

③地方発の、地方のデザインを

 静岡県の人口は約370万人で、規模としては47都道府県中10番目です。一方、首都圏と中京地区に挟まれ、18歳人口の県外流出は実に73%と高く、人口流出数も北海道に次いで全国でも2番目に多い。原因の一つは、県内の雇用の受け皿の減少にあることは間違いありません。かつて静岡県は、首都圏に近いことから大手製造業の進出が盛んでした。しかし平地が少なく、その上徐々に地価も上昇していったことから、近年は流出が目立ちます。大学としては、地域連携にいくら力を入れても、採用の受け皿が減少しては、学生に教育の成果を十分還元できませんから、歯がゆい思いです。

 国は現在、地方創成を掲げて様々な施策を講じていますが、地方から見ると、その多くは首都圏中心の視点によるもので、結果的には一極集中を助長しているように思えてなりません。かといって、地元の行政にも明確なビジョンがあるわけではない。地価が高いなら高層ビルを建て、労働集約型の業種を誘致する。また静岡空港の利用客は、海外からの観光客も多いわけですから、県内観光地を早急に整備し、静岡県にお金が落ちるような仕組みを整える必要がある。

 また静岡は、開発の祖である徳川家康が隠居の地と定めたほど気候温暖で住みやすい土地ですから、高齢者の移住を促進し、医療や介護、福祉の充実に力を入れるのも一つの方法ではないでしょうか。超高齢化とグローバル化が進展する中で、このような取組に力を入れることが、《世界に負けない地域づくり》には欠かせないはずです。

 2013年の3大学統合時に、静岡県内の大学で初となる法学部を開設したのにはこのような背景がありました。それまで県内には、国立大学にも法学部はありませんでした。そこで、静岡の将来のグランドデザインを描く際の中核となる人材を育成しようと開設に踏み切ったのです。今ようやくその卒業生が、県庁や市役所など行政機関へ進出し始めていますから、近い将来、大学の地域連携の取組との相乗効果が期待できるのではないでしょうか。

 地域とともに育ち、知徳兼備、未来志向、地域貢献の3つを教育理念に掲げる本学にとって、静岡のあるべき姿を実現するのに貢献できる若者の育成は最大のミッションとも言えます。そのためには、今後もそれに応えるのに必要な新たな学門分野、教育組織の可能性を探り続けなければなりません。大学統合、キャンパス再編に一区切りついた今、真の地方の時代実現へ向けて力を蓄え、そのための構想を練りたいと考えています。

常葉大学
理事長
木宮 健二
静岡市在住。京都大学農学部卒業。同大学院農学研究科修了。
1992年 静岡大学農学部教授
2002年 学校法人常葉学園理事長就任
2007年 富士常葉大宇学長(兼務)
2013年 常葉大学短期大学部学長(兼務)
日本私立大学協会理事、静岡県病院協会理事、2018年、文部科学省大学設置・学校法人審議会委員。農学博士。

 

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大学ジャーナルオンライン編集部

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