国立大学も経営の転換期に
国立大学に対する運営費交付金が増えない中で、東工大、東京芸術大、千葉大、一橋大学が授業料値上げに踏み切った。現状のままでは、教育・研究の環境が劣悪になっていくのではないかという危機感からだ。一方で、新たな資金源として期待されるのが産業界との連携で得られる寄付金だ。
京都大学では特許を扱う関西TLO(関西ティーエルオー株式会社)、投資会社京都iCAP(京都大学イノベーションキャピタル株式会社)を運営して、呼び込んだ投資で大学発ベンチャーを29社立ち上げている。東京大学、慶應義塾大学には一歩譲るが、昨年立ち上げた数では日本一となり、今年のTHE大学インパクトランキング※では48位と、国内一位になった。ただ、産学連携を一段と進め、日本だけでなく、海外の産業界からも注目を集めるためには、やはり学生も含めて若い世代のイノベーション創出に向けた意識改革も必要だと思う。
※SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)の枠組みを通して大学の社会貢献度をランキング
海外展開、海外との提携も加速
最近は、国内の大学だけでなく、世界の大学に目を向け始めている高校生も増えてきていると思うが、拙速に海外の大学へ行くことについては疑問を感じている。日本の大学も今は相当国際化していて、京都大学でいえば海外の提携大学は170ほど、海外拠点は59で、学生が海外で学べる様々な仕組みも整えている。
ダブルディグリー、ジョイントディグリーを増やす一方、指定国立大学法人に移行後は、海外の大学や研究機関との共同設置による現地運営型の「オンサイトラボ(On-site Laboratory)」を11 ヶ所認定し、開設が進んでいっている。当初の目標は5ヶ所だったから、この間、国際的な注目度が高まり、海外の大学から連携先として注目されるようになったからだと考えている。
このような展開の中で、われわれが目を向けている先は、ヨーロッパのドイツ、イギリスで、ベンチマークとしているのはオックスフォード大学だ。出版局などの他に、大学のシーズと企業のニーズを結び付けて企業のコンサルを行う会社を外付けで作っているが、京都大学でもそれを倣って、昨年、京大オリジナル(株)を設立した。世界で活躍しているOBの知も巻き込み、学生にも参加を促して起業家精神を養い、早ければ学生時代にベンチャーを起こすなど、国際的な舞台に立てるような人材を育てたい。
もちろん政府の推すアメリカを軽視しているわけではない。カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCサンディエゴ:Universityof California, San Diego)に加えて、昨年はワシントンDCにも拠点を置いた。アメリカで二度にわたって創薬で成功し、当地でハルシオン・インキュベーターというNGOを作って様々な企業家を育てている工学部出身の女性イノベータの招きだ。彼女は京都でも6月に、大学のそばに企業からの出資を募り株式会社フェニクシーというインキュベーションセンターを立ち上げた。ベンチャー志向の企業の若手が対象だが、アメリカで成功した本学のスターということで女子学生が注目している。
確かにアメリカは、このような人も出てくる野心が育つ場だから無視はできない。ただ大学同士が交流するには授業料や単位などあまりにも条件が違う。経営管理大学院ではコーネル大学の観光学科とダブルディグリーの協定を結ぶべく話し合いを始めたが、先方の授業料は年間約600万円。授業料不徴収の交渉にはかなりの時間がかかった。最終的には先方が、観光都市である京都で学生が学べるメリットをコストより優先してくれ、京都大学からも少し援助することで妥結した(京都大学・コーネル大学国際連携コース。2020年開設)。
国内に向けた特色入試はすでに4年目に入ったが、海外へ向けた学生募集としては、2年前に吉田カレッジオフィス(KyotoiUP: 国際学部プログラム)を設け、主にASEAN諸国の日本語能力を持った、あるいは半年間徹底して日本語を学び、日本人学生と同じ講義を受けられるようになった外国人学生に門戸を開いている。外部資金を使って4年間学費免除で生活費も支給する。職員が各国を回り、従来は英米の大学に行っていたような最も優秀な高校生を迎え入れ、将来、高度外国人人材等として、日本や日本企業で活躍してもらうべく呼びかけている。今年の入学者は15名。私も台湾やタイへ行った際、彼らと話す機会があったが、日本の高校生が足元にも及ばないような優秀な高校生もいて、日本人学生にとってもいい刺激にもなると思う。アジアは今後、大きなマーケットとなるとともに、イノベーションの中心になってくるだろうから、大学としてもその流れに乗り遅れないようにしたい。
日本の大学も今、このように姿を変えつつある。高校生には、直接海外の大学を目指すより、まずは国内の大学に腰を据え、これまで築き上げてきた知を吸収して足構えを整え、その上で、海外へ進出しても遅くはないということを知っておいてほしいと思う。