参加高校は今
井坂:初めて参加させていただいた。国立大学も経営感覚が大切である、また、京都大は海外との連携を加速させているとのお話をうかがった。本校も毎年少数ながら、貴学に進学させていただいている。本校は、本日参加の高校と違い、まだ創立50年少しの学校である。かつてはSSHに指定され、現在は現役生の3人に一人以上は国公立大に進学している。学校改革の一端として、ここ数年、英語の授業改善、グローバル教育に力を入れている。授業では年間を通じ、ディベートを取り入れ、海外修学旅行のほか、希望者対象だが、UCLAに50人ほどの生徒を送り、現地でプログラムをこなし、大学生とのディスカッションなどを経験させている。英語の力、グローバルな体験や考え方等は、文系理系にとらわれない基盤となる力として位置付けている。まだ始めたばかりの取組であり、今日は様々なお話をうかがい、持ち帰りたいと思っている。
髙岡:2週間ほど前、京都大学の女子高生応援事業「女子高生応援大使」で卒業生2名を派遣してもらった。職員の方にも学校にお立ち寄りいただき、丁寧なご説明をしていただいたことに感謝している。卒業生からは、「埼玉から京都に行って学ぶことはそれ程ハードルが高くなく、楽しい生活を過ごしている」といった生の声が聞けたのでよかった。1、2年合わせて70人ぐらいが参加し、みな大変刺激を受けた。
山極:ありがとうございます。現在京都大学の女子学生比率は22%。できればそれを30%まで上げたいと考えている。
杉山:浦和で5年間校長を務め、1年休んで母校に校長として復帰した。武蔵も京都大学へ行く生徒が結構増えていて、今の3年生も増えるかもしれない。もちろん東京大学も増えてほしいが、自由な校風をモットーとする本校としては、東大至上主義にならず一人ひとりの志向を尊重したい。
総長のお話から、グローバル化は避けて通れない時代だという認識を一層強くした。一部の生徒に限らず全員が、10代の多感な時期に多かれ少なかれ海外を体験することがとても大事になってくるのではないか。そしてこれからの日本と世界を見据え、自らと世界をつなげることで高い志を抱き、学習意欲を高める。豊かな社会で育った今の高校生は、他のアジアの高校生に比べると、ハングリーさに欠けるが、外の世界に触れてつながると99%の生徒が変わる。その上で、海外の大学への直接進学も含めて、様々な選択肢を与えたいと考えている。
武内:夏休みに、ボストン、ニューヨークへ赴き、アスペン研究所へお邪魔し食糧問題の専門家の前でプレゼンテーションする研修や、シリコンバレーやハワイ島で、最先端のグローバル企業で研修を受けるプログラムなどを行い、海外との接点を増やしている。ニュージーランド、韓国の姉妹校との交流も行う。参加した生徒はモチベーションを高め学びに向かう姿勢も変わってくるが、日頃の授業でも同様の意識付けができないか模索している。国の言う対話による主体的で深い学びではないが、生徒が自分の考えを出しあうことで新しい気付きや発見が得られるような授業を通して、知的な探求心やモチベーションを高めるなどだ。
森上:学習意欲という点では、女子の方が高いことがよく指摘されるが、桜蔭ではいかがですか。
齊藤: 本校では直接海外の大学へ行くというより、UWC(United World College)などの奨学金をもらって高校を退学して、それこそコスタリカや香港などのハイスクールへ行き、そこから海外の大学を目指すというパターンが多い。もっと熱心なご家庭では、高校へ上がる段階でスイスやイギリスの全寮制の学校へ行かせるようなこともあった。女子だからなのか、いきなり海外の大学へ行くというのは親子ともに不安なのかもしれない。一方で海外にはあまり関心がなく、医学部以外ならなるべく自宅通学で、という保守的な層もある。前者には両親が海外の大学を経験しているようなご家庭が多く、後者は、これまでのように手に職を付ける、資格重視で「だから医学部」というようなお考えのご家庭が多い。京都は毎年2~3名が入学している。
山極:今年、女子寮を新築した。きれいで高級感がありますから、ぜひ。
森上:同じ女子校ということで豊島岡女子学園さんでは?
竹鼻: 傾向は似ている。海外大学進学セミナーなどを実施すると保護者が大勢集まるなど、生徒本人より熱い。ただし、情報は仕入れるが、留学を考えるのは大学へ行ってからというご家庭が多い。海外との提携では、ニュージーランドの提携校での3ヶ月留学に加えて、昨年からボストン研修を始めた。ボストンでは、大学生や女性研究者が情熱的に頑張っている姿にとても感化されたようだ。海外経験のある在校生や卒業生が、自らの経験をシェアすることもしているが、大学へ入学してから、多数募集している留学のための試験をパスして、奨学金で行く方法もあるという卒業生からの情報は新鮮だったようだ。大学入学後にチャンスをうかがって、という選択も増えてくるかもしれない。
山極:確かにアメリカの大学の月謝は高いが、さきほどもお話したように、授業料不徴収による学生交流協定を結んでいるところなら、国内の大学の授業料で行ける。
鵜崎: 日本の大学へ進学する生徒は、比較的志望が定まっている。それに対して、海外の大学を志向する生徒は、大学に対して自由に自分の学びを広げる場というイメージを持っている。そもそも私たちが中高の段階で重視しているのは学びの動機付けで、特定の目的のための学びだけではないから、大学でどれぐらい自由に学べるかを気にする生徒がでてきても不思議ではない。残念なのは、日本の大学にもフレキシビリティがあることがまだ生徒に伝わり切っていないことだ。京都大学については、「おもろチャレンジ」(122号、128号に詳しい)などの例も出しているが、自由な学風のイメージがしっかり浸透しているとは言えない。京都という学問の街に身を置いて、自由に学びを広げることができるというイメージをもっと強く持てるようにすれば、腰を据えて日本でやっていこう、と考える生徒も増えるのではないだろうか。
山極:高校生の資質が両極化していると聞く。親がかりで進路が選べない生徒がいる一方、早くからやりたいことを決めて学部を選ぶ生徒も増えていると。大学でも、学びたいことがわからないという学生もたくさんいて、まずはやりたいことを決めてもらうためにたくさんのコースツリーを示し、学部によっては担任やメンターを設けて対応している。文理融合の総合人間学部に限らず、志望する学科で選ぶ工学部や農学部にもそういう学生はいて、卒業研究の指導教員を複数設けるなどして対処もしているが、悩ましい問題だ。そもそも大学は、20歳前後の多感な時期を過ごす場所だから、様々な刺激を受けて進路変更するのはやむをえないのではないか。
今日お目にかかったOBの大企業の元トップのお二人は、ともに進路変更されていた。将来の希望をきちっと決めてから進学させるのか、まずはいろいろな学問を渉猟した方がいいとサジェストするのか、先生方もご苦労だと思う。
森上:進路選択という点で、今日お集りの学校にとって医学部進学も大きなテーマだと思うが、戸山高校では?
布施:「チームメディカル(T. M)」と呼ぶ、医学部に進学したいという生徒を支援する取組を4年前、大野先生の時から行っている。ただ、特進クラスのような形にして特別扱いするのではなく、希望者は、通常は自分のクラスの授業を受け、放課後や土曜の午後、夏休み等に集まって活動する。現職の医師に来てもらいその仕事について話してもらう他、夏休みなどに、都立病院や大学医学部、医学系の研究所へ行き、見学だけでなく、医療器具に触れるなど実習もさせてもらう。キャリア教育の部分では、医者への適性や医者になる目的を突き詰め、今なすべきことについて考えを深める。年々女子が増え、今年の一年では7割以上だ。女子にとって医者は非常に魅力的な職業ということで、昨年の騒ぎで志望者が減ることもなく、結果もそれなりに出ていて、今後も増えると思う。
山極:今、医療に従事するのは医者だけではない。リーディング大学院で医工連携を7年間やっているが、工学部の学生が医学部の解剖実習へ行ったり、人間の体に触ったり、体の仕組みを医学部の先生から学んだりして、工学的な立場から様々な医療デバイスを考えている。AIを使って診断もできるようになってきているから、数学的な知識も必要だ。総合的な医学というものがこれから必要になってくる気がする。
布施:実習を通じて、医師免許を持っていなくても医療の研究に携われることに気づき、医師を諦めるのではなく、前向きにほかの分野に進路変更する者も出てきている。
山極:iPS細胞研究所には様々な分野の人が集まってきていて、それぞれ利用の仕方を考えている。国も相当な資金を投じて支援してくれているから、今後、いろんな発明や発見、大きな産業に結び付くような成果が生まれてくるのでのではないかと期待している。