文系・理系を分けること、文理融合については?
森上:他にもいろんなご意見があると思うが、目下、注目を集めている文理融合について、引き続き布施先生からご意見を。
布施:本校は1年から2年へ上がる時にクラス替えはするが文理分けはせず、卒業まで同じクラスで進む。3年では大学入試に対応して選択科目に差が出るだけで、それが本校の一つの魅力になっていて、毎年一定数、中高一貫校から早い段階での文理分けを嫌って入学してくる生徒がいる。学力の高い生徒ほどいろんなことに興味があり、文系も理系もできるのは当たり前だし、16から18歳の間に自分の将来を決めること自体に無理があるのかもしれない。大学へ入ってからもいろんなものに出会うわけだから、その中から本当にやりたいことが見つかればいいのではないか。
山極:『AIvs.教科書が読めない子どもたち』を著した新井紀子さんは文系から理系へ転向されたが、それには数学のリテラシーが少しでもないと難しい。早稲田大学は政治経済学部などで文系の学生にも数学の試験を課すと決めたが、これからのICT時代には、ある程度の数学の知識を持って高等教育に臨まないといけないのではないか。
森上:首都圏の公立高校では京都大学進学者の多い西高の萩原先生、いかがでしょう。
萩原:3年でクラス分けはしているが、実質的には選択科目の量の違いだけ。Eテレの番組で、本校生徒30人とOB、社会人を入れて「文系と理系どっちの道を選べばいいの?」という対談を行った。その中で、大学受験では文系・理系を選ばざるをえないが、自分は文系の学部を受験するが数学も理科も勉強していて面白いという生徒や、理系でも、社会科学系も含めていろんなことがわからないとダメだとわかっている生徒もいた。放送後、教員も1、2年はバランスよくいろいろな科目を学ばせている意義を改めて感じたようだ。新カリキュラムへ向けて、どちらかに特化させるよりは、基礎教養という考え方で、幅広くやるべきだと改めてと感じた。
高校までに多少なりともいろんなことを学んで大学へ行くと、それはどこかで役に立つ。またしっかり読書をしておくと、どんな分野へ進んでも、そこで求められるものを自分で読んで知識を吸収していこうということになってくると思う。特にこれからの時代、海外へ出るなら日本のこと、相手の国のことについて政治経済の状況を含めて知らないと何もできない。やはり高校はそのようなベースを作るところであり、同時にそれを実現させられる学校でなければならないと強く思う。
稲垣:今年の京都大学の入学者は、現浪合わせて11名、一昨年に比べると5、6名増えている。東大志向が強い一方、異なる価値観、学術研究をしたいから京都大学に行きたいという生徒も一定数いる。平均すると毎年14、5名だが、彼らが夏休みに戻ってきて、部活等で後輩に、京都大学の面白さをあれこれ話すのも一因だと思う。
本校のカリキュラムは、西高と基本的には同じでリベラルアーツを目指している。文系・理系に関してはコース分けをせず、3年後期に半期の科目を用意してどちらかを厚くするだけで、前期までは文理を遍く当然のように学ぶ。そのせいか、欧米の大学のように学部は理系、大学院では文系に移って研究を進めていくような、例えば、国際政治学者である三浦瑠麗氏のような卒業生も多いと聞いている
成績上位者の志望はここ2、3年で大きく4つに分かれてきている。東京大学、京都大学(一橋大学、東京工業大学を含む)志向が第一希望としてあるものの、医学部志向が強まるとともに、SAT等を受けて直接アメリカの大学等を目指すケースもある。これは、浦和高校を見習って本校同窓会がグローバル志向を持つ生徒を支援するための公益財団法人を作り、短期、長期の留学に対して10万円から20万円程度の経済的支援ができるようになったことも影響しているかもしれない。4つ目は、研究重視で東北大学や北海道大学等の工学、理学系を目指すグループである。
佐藤:「伝統的」に全生徒に全科目を取らせている。理科も地学を含めて4科目、社会も全部だ。3年で文系・理系に分けるが、理科と社会の関係だけで、文系でも数Ⅲの最初の部分を取り出して「解析基礎」という設定科目を作り微積だけはやらせている。
生徒の中にも文・理分けを疑問に思う者もいて、先日の2年生対象のクラス分けの集会では、「文系、理系のどちらにも興味があるから決められないが」と質問する者がかなりいたと聞く。実際、理系に東京芸大の作曲科に行きたいという生徒がいたりもする。教員としてはこうした伝統は守るべきだとの認識を持っているが、いかんせん時間が限られている。すべてを取らせるとなると、1科目につき週3時間、4時間確保するのは本当に厳しい。授業の工夫でそれをどう補うか、1年から3年の中でどうつなげていくか、新カリキュラムの研究も含めて進めている。ただ、卒業生の多くは、大学の1、2年の教養は楽だったと言う。高校ですでにいろんな形で、しかもかなり深くやってきているからと。
京大の取組では学部生を対象とした「おもろチャレンジ」にとても関心がある。学校でも話すが、一般的な海外留学とは異なり、どんなことでもいいから自分のしたいことについて計画を立てさせて援助する、というのは他の大学にはないのではないか。