山極:体験型海外渡航支援制度だから、企画の目的は学問でなくてもいい。人気は高く、倍率も5倍近くで、女子も4割と多い。おもろい企画も増えているが、最近では、行ってきた学生が次に行く学生の壮行会に来てくれたり、アドバイスしてくれたりして次へつながっている。

佐藤:行った学生は何らかの成果を求められるのか?

山極:報告会はするが、学業にどう役立ったかは一切問わない。

安藤: 昨年のこの会の後、前期末の校長講話で総長とお目にかかったことに触れた。その後、本庶先生のノーベル賞受賞の発表があり、後期の始めにはその話をさせてもらった。京都大学へは今年度、8名入学させてもらうなど、少しずつ増えている。

 本校は、千葉県では、千葉、東葛飾とともに御三家と言われているが、近年は大学合格実績だけなら千葉に近づいている。受験指導は十分な体制を敷いているが、私としては、さらにチャレンジする意欲の旺盛な逞しい生徒を育てることに力を入れたい。2番手校として保護者の期待が大きく、大事に育てられてきた生徒が多いこともあって、そうした意欲を喚起するのも簡単なことではないが。

 文系・理系については、3年で選択が変わる程度で大きく分けてはいない。進路選択については、あまり早く決めないで、できるだけ幅広く学ぶべきだと言っている。「大学へ行ってから自分の進む道を極めた人はいくらでもいるから」と。「おもろチャレンジ」も含めて、京都大学には学生に自分の頭で考えさせるなど、逞しい人材を育てていってほしい。

山極:先ほど紹介したOBが印象的なことを言っていた。「自分たちが今あるのは出会いと選択の結果だ。選択は自分の意志で行うものだが、出会いは偶然で自分の意志ではどうにもならない。出会いによって刺激を受けて、自分なりに選択してきた結果がこれだ」と。であればこそ大学は、学生がたくさんの貴重な出会いを経験できる場でなければならない。「おもろチャレンジ」もその一つ。大学は学ぶだけの場所と考えている学生も多いから、大学は出会いの場でもあり、大学の敷地だけがキャンパスではないということを、もっと伝えなければいけない。京都の町、あるいは海外へ出て様々な出会いを経験し、それを通じて自分のしたいこと、得意なことを客観的に見定め、進むべき方向を自らの責任で選択してほしいと思う。ただ高校生には、確信的に自分の能力に目覚めている者もいて、それはそれでいいけれど、そうでない場合には、無理な選択をさせる必要はないのではないか。

森上:男子校を預かる立場として小嶋先生は?

小島: 今では極めて珍しい公立男子校で、私のいた40数年前の「頭を鍛えるのは当たり前で、それは各自でやる。学校は心と体を鍛える場だ」という雰囲気もかなり残っている。ただ当時とは違い、勉強面でも、学校は生徒とのかかわりを相当大事にしており、生徒はかなりシステマティックに勉強するようになっている。朝6時半の開門以降少しずつ集まり、7時半過ぎにはかなりの数になる。放課後は、部活が終わる6時、7時以降も、家に帰っても勉強できないと完全下校の9時ぐらいまで残る生徒が多い。

 伝統なのか、男子校だからなのか、自由な雰囲気の中でよく勉強もするが、部活に時間を取られ、目いっぱいの生活を送っている生徒も多い。毎月のようにスポーツ大会があり、教員もチームを組んで全種目に参加する。それも、よくある優勝チームと教員チームのエキシビションマッチではなく、トーナメントの1回戦から入る。真剣に生徒と渡り合い、全27クラスを相手に、総合で2位に入っている(今年度、11月現在)。教員が優勝することの多いラグビーでは、生徒は教員に猛タックルし、負けると涙を流して悔しがる。レクリエーションのはずなのに生徒は真剣だ。国が出した部活のガイドライン(週二日は休養日を設ける)を全校集会で伝えると、早速、「部活動には口出ししないでほしい」と校長室に乗り込んでくる。われわれのいた頃からのことだが、前々校長の「勉強、部活、行事の《三兎を追え》」が合言葉のようになっていて、どれも手を抜かない。

 トップ層は東京大学か京都大学を目指す。立地から受験者数は東京大学の方が多いが、京都大学へも毎年15名前後がお世話になっている。面談で聞くところによると、東京大学を目指す理由は大雑把には二つ。あくまでもトップを目指したいからというのと、1、2年では学部を決めず、いろんな学問にチャレンジしてみたいというものだ。京都大学志向の生徒では、「やりたいことが決まっていて、4年間とことん専門を勉強できるから」というのと、「堅苦しくない自由な雰囲気に憧れて」が二分している。

山極:京都大学も工学部は女子比率が約10%。ただ男性同士でもとても楽しそうだ。今年「NHK学生ロボコン」で、15年ぶりに出場し優勝したが、メンバーの中に3人の特色入試で入った学生がいて熱意でみんなを引っ張り、時間制限なしで楽しく準備していたようだ。元気な男子生徒にはぜひ京都大学へ入って欲しい。

森上:私立の男子校を預かる柳沢先生。

柳沢: 文系・理系には全く分けていない。社会と理科の選択科目の数が違うだけだ。ただ本校では免許は同じ理科でも、物理、化学、生物、地学は別々の専門教員が担当するため、選択の広がり次第では教員の振り分けに支障が出る。特に理系の地学は、選択者は毎年1名から3名で、まさに家庭教師状態となる。もちろんそれが、生徒の自主性、自律性を養うことにもつながるのだが。

 OBによる億単位の寄付を基にした「ペン剣基金」があり、その運用益(年約300万円)で、実験、調査などの研究費を生徒・教員に助成している。仕組みは大学の研究者と同じで、申請書を書き、審査会を通れば予算措置され、最後は報告書を書く。ドローンを水平に進ませるための研究等があり、教員の研究では、京都のお寺に夏休み籠っての文献調査などがある。生徒のグループでは広報担当などでも参加できるため、面白い友人関係ができることにも寄与している。

 大学選びに関しては、私自身が高校時代には知りえない化学工学科出身で、それに出会えたのは東大の教養学部で学んだおかげだという話をすると、仕組みの違いに理解が深まる。最近は海外の大学へ直接行く生徒も、5名程度から徐々に増えている。高1段階では30名以上が希望するが、奨学金の問題などで最終的には10名弱に落ち着く。進路選択の準備という意味あいもあって海外のサマースクールに行くことを推奨している。学校単位の交換留学ではなく、自分で申し込むことにしていて、そのためのアドバイス機構も作っている。今年は中2から高2までの80名近くが出かけた。去年は70名、その前が40名、それ以前が20名ぐらいだったから飛躍的に増えている。ただ困るのは、時期が日本の学事暦では期末試験に当たること。そこで開成の教育に匹敵する、あるいはそれを凌駕するような教育経験の得られる学校に行く場合は公欠扱いにしている。その際、「飛び立て留学ジャパン」の奨学金がとても使い勝手がよいようだ。

 海外の大学への進学に関しては、柳井正財団をはじめ奨学金は充実してきたが、反面、それらが取れないと諦める生徒が多い。そこでアメリカなら、現地の大学から得ることのできる奨学金もあると励ましている。これに応える者も出てきているから今後が楽しみだ。

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京都大学

「自重自敬」の精神に基づき自由な学風を育み、創造的な学問の世界を切り開く。

自学自習をモットーに、常識にとらわれない自由の学風を守り続け、創造力と実践力を兼ね備えた人材を育てます。 学生自身が価値のある試行錯誤を経て、確かな未来を選択できるよう、多様性と階層性のある、様々な選択肢を許容するような、包容力の持った学習の場を提供します。[…]

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