ここで、30年ほど前、おそらく最初の高校教育改革の一環として誕生した総合学科高校開設に関わった者として思い出すことがある。
総合学科は普通科と職業学科(別の資料では専門学科)とを総合する新たな学科として1994年に設置された。今回の普通科改革では、普通科の特色に応じた学科名や(類型の設置、)学校設定教科・科目の設定など、総合学科の特色が多く含まれている。見方を変えると、総合学科の特色を引き継ぎながらSociety5.0という新たな時代に備えた普通科のための新しい企画や措置ともとれる。一方で、このような普通科改革が進展すれば、総合学科はその特色の一層の発揮という観点から大きな課題があることも明らかだ。
大阪では1996年、100年以上の伝統校である普通科今宮高校が総合学科に学科改編し、筆者は学科改編の翌年から1971年度までの5年間、校長を務めた。この間、生徒・保護者、教職員は、いわば未知の領域で、前向きにがむしゃらに取り組んでくれた。報道関係者が「総合学科はベンチャー企業ですね。ベンチャー・ハイスクールという名前にしては」などと冗談半分に言っていたのを思い出す。
総合学科の教育課程は、「産業社会と人間」「情報」「課題研究」の原則履修科目と総合選択科目、自由選択科目で構成される。1年次に行った、教育内容の核となる「産業社会と人間」は生徒達には大変好評だった。どの系列に所属するかや、どのような選択教科・科目を選ぶかを生徒に考えてもらい方向付けをする。また多数の総合選択科目の準備に教職員は大変な努力をした。それこそが総合学科の特色、生命線と考え、普通科高校や職業高校では作れない科目を置くことに力を入れた。私自身も大学(大阪府立大学)と連携し、大学院生による「航空宇宙工学」という講座を設けたり、大学の研究室訪問のルートを開拓したりした。
今回の普通科改革における学校設定教科・科目の重視などは、総合学科で行われてきたことそのものであるように思われる。総合学科の生徒数は高校全体で現在5%強。総合学科の広がりが見られないところから思い切った普通科改革に至っているのではないかと考えることもできよう。
ICTの発達によって、国内の大学だけでなく、いろんな事業所や海外の学校や施設などとも連携をはかれるようになった今、これまでになく多種、多様な選択科目が設定できるはずだ。ただ一方で注意しなければならないこともある。かつて総合学科に対する世間の評価には「パイロットスクール」「自由な学校」などの好意的なものから、「あいまい学科」「おかゆ学科」などといった批判的なものまでいろいろあった。
「普通科と職業科のよいところを総合する」という理念は、一歩間違うと「あいまい学科」になる可能性を今も秘めているのではないか。また大学受験の圧力は弱まったとは言えまだまだ根強く、少子化が進む中、公私を問わず、学校間の生徒獲得競争がますますし烈になる中、生徒・保護者のニーズの把握も欠かせないだろう。今回の普通科改革が総合学科改革の轍を踏まないことを切に願う。
総合学科に話を戻せば、その改革継続には、まず「産業社会と人間」の内容を精選、確立し、魅力ある選択科目を多数用意することがやはり重要だと思う。ICTやAIなどの先端技術を駆使し、輝かしい未来を作り活躍する人材育成を担える総合学科であることが望まれる。
元大阪府立今宮高等学校校長、くらむぽん出版代表取締役
田村 昌平
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