プレテストでの記述問題は「論理国語」寄りの出題だった

 少し過去を振り返ってみると、2017年、2018年に実施された共通テストの試行調査(プレテスト)では、生徒会部活動規約や著作権法の条文などが問題の素材として使用されていました。この時は、後に実施が見送られることになった記述問題が、まだ共通テストの数学と国語で出題される予定でした。現代の社会生活で必要とされる実用的な文章や図表や写真などの資料が含まれた論理的な文章が問題の題材に使われたことから、共通テストの国語の出題傾向が大きく変わると受け止められ、高校の国語教育に与えたインパクトは小さくはありませんでした。

 実際に共通テストの当初の問題作成方針では、国語の記述問題は「実用的な文章を主たる題材とするもの、論理的な文章を主たる題材とするもの又は両方を組み合わせたものとする」とされていましたので、多くの高校の教育課程で「現代の国語」、「言語文化」を必修として、あとは「論理国語」と「古典探究」が設置されるものと見られていました。

 ただ、大学入試センター試験でも国語(現代文)の出題フレームは、大問の第1問は、評論などの論理的文章を問題の題材として、第2問で小説などの文学作品を題材にしていました。そのため、「文学国語」を設置しないことで文学作品の学習機会が減り、共通テストの現代文の第2問への対策が十分にできなくなると心配する声もありました。こうした課題をクリアするためでしょうか、多くの高校は「論理国語」と「文学国語」の減単によるダブル設置という教育課程編成に至ったものと思われます。

 この「論理国語」と「文学国語」の減単によるダブル設置について、高校側の声を直接聞いてはいませんが、校内でかなりの議論があったものと推察されます。あるいは、真の読解力や思考力を培うのは、実用的な文章ではなく、文学作品こそが相応しいと考えた国語の高校教員の教育者としての矜持だったのかも知れません。

 

 

共通テストの現代文は大問3題の出題(?)、個別試験で「文学国語」は出題範囲に入るのか

 9月に文部科学省から、教育委員会や大学に対して「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告(補遺)」(9月29日)が通知されました。ここでは、旧課程生(既卒生)への対応など重要な情報が公表されましたが、気になるのは国語の試験時間が現在の80分から90分に10分増加していることです。試験時間の増加は当然の事ながら問題量の増加とほぼ同義語と言えます。

 実は記述問題を含んだプレテストの試験時間は100分でした。プレテストの国語は現代文が3題、古文1題、漢文1題という問題構成で、今年行われた共通テストよりも現代文が1題多く出題されていました。その1題は記述式問題で、前述のように実用的な文章、論理的な文章が問題の題材になっていました。こうしたことから、2025年度入試の共通テストの国語は、大問5題となり、現代文は実用的文章・論理的文章の問題が2題、文学的文章の問題が1題、古文と漢文が各1題となる可能性が非常に高くなりました。

 さて、ここで問題となるのは、各大学が個別試験で課す国語の出題範囲です。共通テストと同じ「現代の国語」、「言語文化」だけにしておくという考え方もあります。現行課程で言えば「国語総合」です。ただ、難関大学や歴史のある文学部を有する大学の場合は、その「国語総合」に加えて、現行課程の「現代文B」、「古典B」を出題範囲にしています。こうした大学は、「論理国語」と「文学国語」、「古典探求」を出題範囲にするものと考えられます。

 ただ、一部の高校では「論理国語」は設置していても「文学国語」を設置していないところがあります。「文学国語」を出題範囲にすれば、こうした高校からの出願者が減ることも考えられます。難関大学を目指す生徒が多い高校は、共通テスト対策もあり、「論理国語」と「文学国語」の両方が設置されているため、難関大学は両方を出題範囲としてもそれほどの影響はないと考えられます。中堅の大学で、歴史のある文学部を持つ大学はどう対応するのか、文部科学省の定めたルールによると、2025年度入試の入試概要は、来年には発表しなくてはなりません。受験生の立場で言えば、後になって「論理国語」や「文学国語」が出題範囲に加わるのは困りますが、後になって出題範囲から除外される場合はまだ対応がし易いでしょう。ただし、直前期の変更は混乱を招きますので避けて欲しいところです。

<参考>
文部科学省「「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告(補遺)」について(通知)」
https://www.mext.go.jp/nyushi/#r7yokoku

 

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神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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