プロジェクト型学習と実践で体系化し修得する

 しかし、上流工程といわれるデータ加工ももちろん下流工程を知らないと作ることはできない。日本工業大学では、サービス工学や経営情報といった顧客やユーザーにサービスを提供するシステム、つまりサービスの付加価値化をプロジェクト型学習(PBL)で学ぶ機会を用意している。

 これまで情報メディア工学科では、NPO法人や地域の特別支援学校、行政などから依頼を受けてシステム開発を行うPBL実習科目を必修で実施してきたように、データサイエンス学科でも3年生で顧客のニーズに合わせて役立つ情報として加工し、ビジネスモデルまで構築する作業をPBLの中で体験する実習科目を必修で配置する。そうすることで上流から下流工程までを体系化して身につけていく流れだ。

 また卒業研究では、実データを使い個人情報の扱いやさまざま法律的な規制を守りながらデータを扱っていくということを実際に体験する。現在、先進工学部でデータサイエンスとして研究されているテーマには、環境保全や津波発生時の避難経路誘導、介護、リハビリなどといった社会課題もある。このような場合、必ずしも問題解決のために十分なデータが得られるわけではない、ごく限られたデータしかとれないことも多い。

 その場合は、介護やリハビリなどは研修を受けて直接現場に入ったりもする。これは不十分なデータから正しい状態を知り、役立つ情報を取り出すために必要な作業なのだ。世の中には、そういう分野がたくさんある。たまにしかおこらないこと、データは少なくても社会的に意義のあること、それをシステムに反映させるというのもデータサイエンスの大切な役割で、ビッグデータを扱うことだけがデータサイエンスというわけではない。

 前身となる情報メディア工学科でデータサイエンスを学んだ学生の多くは、データを扱う企業やネットサービスの企業に就職しているが、メーカーからサービス業までと業種は多種多様だ。

 データ加工も含めて、データサイエンスの技術を修得すれば、業種を問わずさまざまな企業で活躍すること、社会課題解決に取り組むことなど、将来の選択肢は広がる。

 データサイエンティストが裏で動かないと世の中が回らなくなる、また彼らが提供する情報は新しい仕事を創出するというクリエイティブな側面も持っている。いろいろな社会課題が解決されたり、経済活動が活性化されたりしていくためにデータサイエンティストが果たす役割は今後ますます重要になることは間違いない。

 

 

日本工業大学 先進工学部 データサイエンス学科
辻村 泰寛 教授
一般社団法人日本技術者教育認定機構(JABEE)理事、関東工学教育協会監事、公益社団法人私立大学情報教育協会産学連携推進プロジェクト委員会委員、経営工学関連学会協議会会長

 

  1. 1
  2. 2
日本工業大学

「実工学新時代」変わる教育、変わらない理念

1967年に開校した日本工業大学は、専門的な実験・実習・製図科目を初年次から履修させるなど、独自の「実工学」の学びを展開しています。現在は、基幹工学部・先進工学部・建築学部の3学部7学科2コース編成で、伝統の実工学教育を継承・発展。実工学教育のさらなる深化を目[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。