2022年2月13日(日)に行われた「大学による地方創生人材教育プログラム構築事業(COC+R)」、令和3年度の全国シンポジウム2日目は、「『地方創生人材育成プログラム』と『地方大学が輩出すべき人材の地元就職』の因果関係とは?」をテーマに据え、ワークショップ形式で行われました。シンポジウムの大テーマである「人材輩出」に結び付けていくための因果モデルの構築を目指します。COC+Rの4事業を振り返り、どのような「因子」を洗い出すか。それぞれの事業責任大学からの発表とディスカッションを行いました。
まずは「企業」「大学」「学生」3つのステークホルダー毎に整理
まず、進行役である信州大学の矢野俊介特任教授が、前日に行われたシンポジウム一日目のまとめを行いました。基調講演から4つのワークショップまでCOC+Rに深く濃く関わっているコンテンツばかりで、これだけでも聞き応えがあります。
次にファシリテーターの信州大学山本美樹夫特任教授が、第二部の概要について説明。一日目の内容を地元就職に向けた「土台」として、地元就職を促進する教育プログラムを「因果モデル」の構築によって完成させようという試みです。学生の地元就職を促進する出口一体型教育を実現するため、大学・学生・企業それぞれの中から「因子」を抽出し、それらをどう作用させて人材育成に結び付けるかを論議します。「y=aX+b」という数式を立て、yを地元就職とした場合、有効に働く因子を見つけ出すのが全体構造です。
COC+Rの4事業内容をそれぞれの担当教員が説明したのちに、どのような因子を発見できたかを報告しました。
地域志向にどんな因子が潜んでいるか──信州大学
信州大学・富山大学・金沢大学の連携による「地域基幹産業を再定義・創新する人材創出プログラム『ENGINE』」。信州大学の西尾尚子助教は、因果モデルを作成するため、そこから地域志向に寄与する因子について考察しました。仮説設計の図を示し、全体像を解説。地元就職向上へ向け、企業・大学・学生に対しそれぞれどのような因子が影響を与えているかのアイデアを出し合ったといいます。企業と学生の距離をなくす「大しごトーク」「ENGINEインターンシップ」、そして授業科目を例に取り、地元就職の影響要因となるものについて説明。因子を明確にするため、大分類→中分類→小分類とセグメントしていき、小分類で具体的な行動を列挙して関係の深そうなものを因子としてピックアップしました。
学生と企業の相互要因が重要では──徳島大学
地元企業との連携で「とくしま創生人材企業共創プログラム」を実施している徳島大学。学内エクスターンシップ(企業人が大学にて訪問実習)と実践型インターンシップ(チームを組み半年から10カ月の長期実習)の組み合わせが特徴です。
山中英生教授は、「企業因子」についての深掘りを発表しました。企業の認知度を上げ魅力を理解する鍵は何かを、プログラムから得られたフィードバックを交えながら分類。地域企業のどんな魅力が学生に伝わっていったか整理した表を作り、エクスターンシップで学生から見た企業の情報、企業側からの感想や気付きに、数多くの因子が発見されました。
プログラムの効果を検証していけば、企業と学生要因の交互作用が重要ではないかとの仮説が立てられます。今回のCOC+R事業での取組は、企業と学生の相互要因をさらに変化させるかもしれないと語りました。
高年次の教養教育とリカレント教育が鍵──岡山県立大学
岡山県立大学が進めるCOC+R事業は「『吉備の杜』創造戦略プロジェクト ─雑草型人材育成を目指して─」と銘打ったプログラム。同大学には「地域貢献」が建学理念に織り込まれている通り、COC+で蓄積した経験値を盛り込んだ「岡山創生学課程」が特徴的です。保健福祉・情報工学・デザインの3学部と関連付いたプログラムも開設されていて、「地域創生推進士」を取得した学生の就職率は、平均より10%高いとの結果が出たとのことです。
「大学因子」を深掘りした末岡浩治教授は、「大学院科目でのPBL演習を通じて、高年次の教養教育を専門性教育と融合させることが重要であることがわかった」と語りました。リカレント教育とも併せ、うまく融合させて人間力を培いたい、これらを育成していくことが大学プログラムの因子となっていきます。
新たな基準をプラスして地元就職の促進へ──山梨県立大学
「VUCA時代の成長戦略を支える実践的教育プログラム」をCOC+R事業として実施している山梨県立大学。価値創造人材を育成し、山梨における付加価値産業を創出する戦略を掲げています。新しいことを始めている人たちを招いたり、社会人にも受講者を広げたりといったプログラムは、自分を高めることができたと高い評価を獲得しました。
杉山歩准教授は「学生因子」を掘り下げるにあたり、「地元就職率を上げるためには『災害や疫病に強い』『大学の学びが活かせる職場』『卒業後のサポート環境』といった新基準をプラスすること」と説明しました。それにはキャリアが接続し学びが社会貢献につながること、自分もリカレントで戻ってこられる環境が必要です。社会人との学びの場、地元ニーズに合った教育プログラム、講師陣の重要性も説きました。
因果モデルを数値化して、全国へ展開を
4大学の発表後はフリーディスカッションに。「企業が自分たちに合う学生を探りに大学へ来るようになった(山中教授)」、「一番能力を発揮できる環境を設定することが地元就職率に貢献する(杉山准教授)」など、山本特任教授や参加者からの質問に答える形で各氏ともに意見を交わし合いました。
次に信州大学の林靖人教授が令和4年度のCOC+Rについて「今挙げられている3つの因子を定めていき、変数の内容を数値化。大学の皆さんにも参画してもらい全国で活用できる因果モデルとして展開していきたい」と述べました。
最後は信州大学中村宗一郎学長が「地域の産官学の連携で、多様なコミュニティを巻き込みたい。知の拠点として地域にフィードバックできれば」との言葉で締め、2日間にわたるシンポジウムは幕を閉じました。