「+R」となり、3ステージ目を迎えたCOC事業*。コロナ禍が続く今、地域活性・地方創生を取り巻く状況も大きく変わりました。変革に強い人材をどう輩出するかが、今、COC+R事業に問われています。次のフェーズでは何を成すべきか、地方創生は今後どう変化していくか、そして将来的にどんなプロジェクトが考えられるか、COCスタート時から深く関わってきた信州大学の林靖人教授に話をうかがいました。

※COC=Center of Community 大学が地域の中核となって地方創生事業や地域を活性化する人材育成を進める活動の総称。

 

 

地域企業の魅力と活力創出が、育成した人材を引きつける力に

 林靖人教授が推進役を担う「ENGINEプログラム」は、信州大学・富山大学・金沢大学の連携によるもの。そこで掲げているのは「突破力のある人材」育成です。林教授は「一方通行の『教育』の殻を破り、自ら動く、主体性を育てる『学び』」を重視しています。「コロナ禍が続き、世の中も就職の状況も明らかに変わりました。だからこそ変革に強い人材をつくらねばなりません。変化に追いつき追い越していくくらいの」。

 そのため、大学も企業も視点を変える時だと続けます。大学は今まで以上に企業の中に踏み込んで人材育成に取り組み、変革を促す必要があります。そして企業も、今の学生は昔とはまったく違う意識を持っていることを理解し、意識を変えねばなりません。特に「突破力」を身に付けた人材を獲得したいのであればなおさらです。
「地域企業が魅力的で活力のある存在になる、起業も含め新しい環境をつくり出す。次年度以降は、そんな要素を強化していきたいです」と林教授。ENGINEプログラムの一環である学生と企業との距離を縮めるイベントに留まらず、リカレント事業の一体化も、その狙いが込められているのかもしれません。

 

 

地方の新しい活力は、人材の循環によって生まれる

 こうやって育成された人材は、ゆくゆくはどこに向かっていくのでしょう。「人材は、滞留したら駄目なんです。常に循環して入れ替わり、交流していけば、新しいことが生まれます。循環のためには、各地に魅力があることが必要です」。

 林教授が語る通り、仮に東京で就職したとしても、ノウハウを身に付けていくうちに、ジョブチェンジをして、地元や地方で新しいことを始めるケースも最近は多く見られるようになりました。やりたいことの選択肢は、学生自らがあちこちに発見しています。地域は、ただ留まってほしい、来てほしいと祈るだけではなく、選びたくなる・選ばれる地域になる取り組みをすることが、人材循環に最も重要なのです。

 地方創生は人類創生の縮図であると、林教授は語ります。今年度、COC+Rシンポジウムでは、ローカルESGをテーマとしましたが、それは循環の価値、バランスを理解するメタファーになるとの考えからです。つまり、足下が変わると世界が変わるのです。大学との連携によって企業の意識が変わり、環境が変わり、地域も変わる。人材の循環は、地域を超越した力をこの国にもたらす──そんな期待を持っていきたいものです。

 

アジア圏の地方創生にも可能性

日本だけではなく例えば台湾や韓国でも、一極集中の弊害で衰退してしまっている地域があります。次に成長してくるアジア圏の各国でも、将来起こりうることです。現在、日本の複数の大学と台湾の複数の大学が連携し、アライアンスをつくってお互いの成果を共有し、一緒に地方創生を考えているところです。COC+Rで育成された人材が海外に目を向けることで、それが地域・自国のことを深く知ることに繋がります。今後のシンポジウムには国際連携による地方創生も盛り込もうと密かに考えています。

 

信州大学 林 靖人教授

愛知県出身。信州大学大学院総合工学系研究科修了(博士:学術)。専門は感性情報学。心理学的知見を応用し、ブランド認知の仕組みやブランド構築の実践的研究をおこなう。また、大学発ベンチャーでの社会調査や行政計画策定等の事業経験を活かし、信州大学の産学官連携やキャリア教育、地域貢献活動のプロデュースを担当する。

 

※事例集(pdf版)はCOC+Rポータルサイトからダウンロードできます。

 

信州大学

地域社会、グローバル社会における豊かな人間力と実践力のある人材を育成

信州大学は、長野県内に5つのキャンパスを擁する、広域型キャンパス型の総合大学。人文学、教育学、経法学、理学、医学、工学、農学、繊維学の8学部で構成され、幅広い教養と基礎的能力を修得する教育や研究を行っています。学部を越えた共通教育や、自然豊かな信州の地域性を活[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

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