2022年4月、新しい学習指導要領による高校教育が始まりました。現在の高校1年生が大学受験に臨むのが2025年度入試です。そのための入試科目等の公表は2022年度中に行われなければならないのがルールとなっています(いわゆる2年前ルール)。東京大学は3月26日に大学入学共通テストで課す教科・科目を公表しましたが、そこでは「情報Ⅰ」が課されることなどが話題となりました。この「情報Ⅰ」以外にも新課程入試のポイントはいくつかありますが、今回は移行措置として2019年4月からすでに高校現場で行われている「総合的な探究の時間」と総合型選抜について考えます。

 

 

2年前ルールによる2025年度入試科目の公表

 東京大学は3月26日に大学入学共通テストで課す教科・科目を公表し、「情報Ⅰ」が課されることが分かりました。なお、配点や選択方法は改めて発表されることになっています。これに先立ち国立大学協会は1月28日、原則としてこれまでの5教科7科目に「情報」を加えた6教科8科目を課すことを発表していますので、東京大学の公表は、この基本方針に沿った内容になっています。

 これら一連の動きは、いわゆる2年前ルールに沿ったものですが、2年前ルールとは正確には文部科学省が毎年通知している「大学入学者選抜実施要項について(通知)」に記載されている一文のことを指しています。この通知の中で「個別学力検査及び大学入学共通テストにおいて課す教科・科目の変更等が入学志願者の準備に大きな影響を及ぼす場合には,2年程度前には予告・公表する。

 その他の変更についても,入学志願者保護の観点から可能な限り早期の周知に努める」という一文があります。高校生が科目選択を行い文系・理系を決めるのが、多くの場合、高校1年生の終わりごろですので、それに合わせた配慮だと言えます。

 ただ、実際には、特に私立大学では毎年のように新しい入試方式が導入されるほか、現行方式のマイナーチェンジも頻繁に行われていますので、実質的にはこの2年前ルールは形骸化していますが、入試制度や教育課程が変わった時など大きな変更がある場合には、大学関係者は通知で定められた通りに入試科目等を公表しています。

 つまり、今の高校1年生は、今年度中に発表される各大学の2025年度入試科目をチェックしておくことが必要となります。まだ、志望大学も決まっていない場合は、メディアでニュースになる大学の入試科目だけでも良いので見ておくと良いでしょう。ニュースになる大学は受験者数が多い大学や他大学の入試にも影響を与える大学ですので、そこで公表された入試科目などが標準的な科目設定になると考えて差し支えはないでしょう。

 

「総合的な探究の時間」移行措置と模試判定ライン別志願状況

 このように高校の新しい指導要領に基づく新課程が始まったのは2022年度4月からですが、一部の科目についてはすでに移行措置がとられ、前倒しされています。高校では2019年4月から「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」になっています。

 2019年4月に高校1年生になった生徒から「総合的な探究の時間」の履修を始めた生徒は、すでに今年の2022年度入試の受験を終えています。こうしたことから、高校での課題研究や探究活動を評価対象とした総合型選抜を実施する大学も増えています。今後もさらに「総合的な探究の時間」を評価対象とした総合型選抜が増えていくものと考えられますが、出願要件や出願資格について、特に中堅の大学には、十分に検討した上で入試制度を設計することを望みたいところです。

 現在、駿台予備校のHPでは、2022年度入試状況分析が多角的になされていますが、その中に「模試判定ライングループ別志願状況」分析があります。(https://www2.sundai.ac.jp/yobi/sv/news/index.html
2022年度入試での私立大学志願者数は全体では昨年よりやや増加していますが(前年比102%)、上記の分析では、文系は模試判定ラインが偏差値65以上の大学は志願者数が増加しているものの偏差値65未満の大学はどの偏差値帯でも志願者数が減少しています。

 特に偏差値50未満の偏差値帯は3割近い大幅な減少です。理系は偏差値55以上の大学で志願者数が増加していますが、偏差値55未満の全ての偏差値帯で志願者数が減少しています。このように低い偏差値帯で志願者数が減少していることについて、分析ではこれらの大学は「総合型選抜、学校推薦型選抜の募集人員の割合が高く、一般選抜で入学を目指す受験生が減少している」としています。まだ断定するのには情報が足りませんが当たっているでしょう。

 現在公表されている各大学の総合型選抜・学校推薦型選抜の志願状況を見ると増加している大学が多く、また、女子大の一般選抜の志願者数が一部を除き軒並み減少していることからもこうした状況がうかがえます。少々婉曲な説明となりましたが、要は2025年度入試で総合型選抜の入試制度の設計をする場合、メインとなる受験者層が上記の層になることを十分に考える必要があるということです。

 

「総合的な探究の時間」を受け止める入試制度の設計を

 メインとなる受験者層を十分に考える必要性は、現在の総合型選抜の出願資格を見ると分かると思います。現在の総合型選抜の出願資格は、一般的な高校生を対象としているとは思えないケースが散見されるからです。筆者が2022年度入試の総合型選抜の出願資格について、国公立大学だけですが、一通り確認したところ、理科関係の国際オリンピックやその予選での上位入賞、スーパーサイエンスハイスクールの取り組みなどが目立ちます。

 指定国立大学法人であれば理解できますが、こうしたハイレベルの取り組みに関わった経験を持つ高校生がどれだけいるのでしょうか。スーパーサイエンスハイスクールが始まったのは2002年度ですが、これまでSSH事業で学んだ高校生の累計人数など定量的なインパクトについては、報告書等にも記載がありません(指定校数の記載は有)。

 また、各教科のオリンピックの参加者数をまとめた資料なども見つけられませんでした。ただ、スーパーサイエンスハイスクール支援事業の説明用資料には、国際科学オリンピック(国内大会)の年間延べ参加者数が1万2,000人とありましたので、ここから考えると、高校生の1学年の人数をおおよそ100万人とした場合、わずか1.2%です。少し間口を広げて考えたとしても、こうしたイベントへの参加者数は該当学年の10%に満たないであろうことは想像に難くありません。その点で出願資格は、もう少し現実的で分かりやすい設定が必要なのではないでしょうか。

 

 

高校生にも分かりやすい出願資格とは?

 例えば、茨城大学理学部の令和4年度総合型選抜学生募集要項を見ると、探究活動経験の例として「授業での『課題研究』に関する取り組み、自然科学系の部活動に参加、スーパーサイエンスハイスクール事業に参加、インターンシップ、自然科学系博物館・動植物園・研究機関・大学等でのジュニア学芸員活動や講座・観察会・研究体験への参加、自然科学のコンテスト等に参加(入賞かどうかは問わない)など」と記載されています。

 具体的で高校生にも分かりやすい内容です。特に「入賞かどうかは問わない」は、受験生に対する温かい眼差しを感じさせます。時々「特筆すべき資質・能力を有することを示す書類を提出できる者」などの出願資格を見ますが、抽象的なので何が該当するのかよく分かりません。

 茨城大学のほかには、大分大学経済学部の令和4年度総合型選抜学生募集要項では、「課題探究型学習に基づく選抜制度」の出願資格として、「次のいずれかの要件を満たす者」として、「①高等学校等の総合的な学習の時間(課題研究等を含む。)等での課題探究型学習の経験者、②大学(本学または他大学)による高校生対象の課題探究型学習の経験者、③課題探究型学習成果コンテストの経験者、④上記①②③の他,高等学校等での課題探究型学習の経験者」としています。これなら高校の授業で「総合的な探究の時間」を履修した生徒全員が出願資格を持つことができます。

 現在の総合型選抜・学校推薦型選抜は、以前のAO入試とは異なり、学科試験を課すことが「大学入学者選抜実施要項について(通知)」で公に認められています。これから「探究」をキーワードに総合型選抜や学校推薦型選抜の制度設計を行う大学には、一握りの高校生だけを対象とするのではなく、一般的な高校生が努力をすれば届く目標を示した制度設計をお願いしたいところです。

 

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/株式会社KEIアドバンス コンサルティング部 部員
/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンスは河合塾グループのため、膨大な入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査が可能なこともあり、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援など設置者を問わず多様な依頼が日々多く寄せられる。
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