桜美林大学は、2023年4月、新たに『教育探究科学群』を開設する。新しい高等教育の在り方を目指し、本人から発露するどんな問いも教育学につなげて考えていこうというのが、この学群の特長だ。

 

 

1,全ては『好奇心』からはじまり、自己変革力と発信力を高めていく
2,社会のあらゆる教育的活動を支える、教職課程のない『新しい教育学』
3,どこでも使える『リサーチのスキル』を、調査法や研究方法論の体系的に習得
4,テクノロジーを用いたオンライン学習と、教室での学習の良さを組み合わせた「ハイブリッド学習』
5,学生同士が教えあい、学びあう『教えて、学ぶ』ピア・ラーニング
6,国内外を問わず、自らが教育の担い手としてさまざまな形で関わっていく『フィールドワーク』

 

教育探究科学群では、上記の特長ともに、高校での『探究』をふまえて、学生が主体となってテーマをみつけ、探究することを基本にしている。探究の起点は、あくまでも学生自身が発信する『好奇心』だ。それを『探究』へと発展させていく。

しかし、本当にやりたいこと、学びたいことは何ですか?
こう聞かれて、即答できる高校生はどのくらいいるのだろう。
やりたいこと、学びたいこと自体がわからない、あるいは、自分の好きなことが大学で学ぶべきものなのか悩んでいる高校生も多いのではないだろうか。

今回、教育探究科学群の立ち上げを担当する山崎慎一准教授に話を聞いた。
「今の学生は、自分の好きなことや、やりたいことがないのではなく、言いたくないだけだと思います」と、山崎准教授は言う。

 

 

「初等中等教育では、学ぶべき内容や目標を定めて進みます。それは、子どもたちが成長する過程で、知識を修得するために欠かせないプロセスであり、日本の初等中等教育はとても優秀です。しかし、それゆえに学生は、自分のやりたいことは何かという問いを立てられたとき、無意識に周りの期待に応えるものを言わなきゃいけない、あるいは正解や目標のように思われるものを導き出そうと考え、結果、その枠から外れているものについては言わなくなってしまっているだけではないでしょうか」。

また、学生の視点が未熟であったり、多面的な思考や知識を持ち得ていないとしても、それは当たり前で、好奇心を起点にした考えが醸成される前の段階でも、自ら発信する意欲を失わずに議論してさらに考えを深めていくには、大学という場が、学生自身にとって信頼できるコミュニティであると思えることが重要だと、山崎准教授は指摘する。

「自らの好奇心を認識し、「探究」につなげるにはどんな選択肢や可能性があるか。それは、本人だけでは気付けないこともあります。だからこそ、学生の小さな好奇心をキャッチアップし、教員やスタッフがファシリテーターやアドバイザーとして、選択肢や可能性を提示するなどバックアップをしながら、最終的には学術的研究成果となるようにサポートします。

最初は、明確にやりたいことはなくても構いません。まずは、いくつかの選択肢から自分の中にある考えに近いもの、好きなものを選ぶという行為を繰り返すことで、本当にやりたいことに近づき、みつけていく力をつけていきます。教育探究科学群には、あえて教員養成課程は設定していません。学校以外の家庭、企業など社会のあらゆるところに存在する教育活動を探究の対象としているからです。

だからこそ、どんなことでもいい、ほんの些細な興味やギモンさえあれば、それは教育学として探究の対象となり得るのです」。

日本では、高等教育でも初等中等教育からの流れで、教える(教わる)学習に終始し、自ら調査し、研究していくという『探究』への転換がうまく図られていない場合も多い。しかし、初等中等教育から高等教育へ段階が進めば、学び方も変わっていくのは当然といえば当然の話だ。

「好きなことを学ぶだけなら、今の世の中、大学に来なくても一人でどんどん調べられますし学ぶこともできます。ただ、SNSもインターネットもとにかく自分に比較的合ったものが集まる仕組みになっているので、偏った情報によって自分の世界観がつくられがちです。

大学で学ぶことの意義は、周囲とのコミュニケーションによって自分だけでは絶対みられない世界をみることだと考えています。そのために教育探究科学群では、『教えて学ぶ=ピア・ラーニング』をコンセプトに授業を行います。自分が探究したことを他人に知ってもらうのと同時に、他の学生が探究してきたプロセスを聞いて、一人ひとりの学生のバックグラウンドを知る。自分が興味のある世界も、全く面白くないと思う世界もある。苦手なことや嫌なこと、あわないと思うことを無理に好きになる必要はありません。

しかし、そういう発見を体験し、実感を得て、自分とは異なる考え方や世界についてその存在を認められるようになることは、多角的・多面的な視野が養われ、教育学に限らず社会のどんな場面でも、また生きていく上でも必ず役に立つ力となります」。

桜美林大学では、本当に探究してみたいことを発見する場になればと、新しい体験に挑戦し、未知の分野を探究する機会として、高大連携プログラム『ディスカバ!』を2019年度から実施、毎年約1万人の高校生にも『探究』の機会を提供してきている。

 

 

これからの時代を牽引し新しい価値を創造できる人材の育成が必要だという社会的要請が高まる中、高等教育が担う役割はさらに重要性を増し、今回新設される教育探究科学群にも注目が集まっている。

歴史を振り返れば、日本の高等教育を切り拓いてきたのは、志をもつ多くの私学だった。そう考えると、桜美林大学が新たな高等教育に挑んでいくのも自然な流れなのかもしれない。

教育探究科学群で、学生たちがどんな学びを探究していくのか、期待感とともに開設が待たれる。

しかし、山崎准教授は、卒業後の具体的な人 材像について聞かれることについて困っているという。なぜなら、教育探究科学群で学んだ学生の未来がどうなるか、150人いれば、150通りの未来が待っている。具体的に言葉にできるようなもので学生の新しい学びと、その未来像を限定し語ってしまうのは早計だと考えるからだ。

誰にも想像できないような未来のタネが、今はまだ高校生一人ひとりの好奇心の中で引き出されるのを待っている。

 

 

桜美林大学 教育探究科学群
山崎 慎一 准教授
桜美林大学経営政策学部、大学院大学アドミニストレーション専攻(修士課程)、国際学研究科(博士課程)修了後、桜美林大学にて学生団体ASPIREのチーフコーディネーターなどを務める。教育探究科学群では学類長に就任予定。1982年生まれ。

 

桜美林大学

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