2023年度入試に向けて、大学入学共通テストの実施が近づいてきていますが、すでにその次となる2024年度入試での新設学部や新設大学の情報が公表されています。現在の高校2年生が受験する2024年度入試では、お茶の水女子大学、日本女子大学などで理系の新設学部設置が予定されています。また、山形県で県立専門職大学の設置も予定されているなど各大学で活発な動きが見られます。大学にとっては新たな競合先が増えることになりますが、受験生には進路選択のチャンスが拡大します。

 

 

2024年度新設学部のキーワードは「理系」

2023年度入試の一般選抜はまだ始まっていませんが、すでに2024年度入試での新設学部や新設大学の情報が公表されつつあります。受験の該当学年は現在の高校2年生ですが、早めに情報を知ることは進路選択の機会拡大にもつながります。

河合塾の大学入試情報サイトKei-Netでは、2024年度入試の情報が掲載されており、現在判明分の新設学部学科や新設大学を一覧表で見られます。そこから主な大学を抜粋して表にしたものが「2024年度 主な新設学部(改組含)と新設大学」です。一見して目立つは、理系分野の学部の新設です。国公立大学では秋田大学(人間社会情報)、お茶の水女子大学(共創工)、公立では富山県立大学(情報工)など理工系分野の新設学部が目に付きます。宇都宮大学(データサイエンス経営)、下関市立大学(データサイエンス)、周南公立大学(情報科学)も文理融合系の学部と見られますので、学修の一部は理系分野だと言って良いでしょう。
※( )内は学部名(現段階では仮称)

私立大学では、日本先端工科大学の新設が予定されており、学部学科は工学部工学科の予定です。また、芝浦工業大学(工)は、学部新設ではありませんが、これまでの9学科を5課程に改組します。組織の大括り化によって学生は隣接する分野の内容をこれまで以上に学修しやすくなります。現在、工学の研究成果によって生み出される工業製品のほとんどは機械、電気、通信、ソフトウェアが一体となっています。この課程制は学生の卒業研究の際に威力を発揮するでしょう。これまでの学科ではなく、課程という大括りの組織になったことで気になるのは入学者選抜ですが、各課程にはコースが設けられており、この9コースが募集区分になる予定ですので、現在の学科選択に近く、受験生が受験する際に戸惑うことはないでしょう。

・Kei-Net 2024年度入試情報
https://www.keinet.ne.jp/exam/future/

 

もう1つのキーワードは「女子大」、これからの女子大は?

このほか注目されるのは日本女子大学(建築デザイン)です。前述のお茶の水女子大学(共創工)も人間環境学科の設置が予定されており、建築分野が含まれていますので併願者は多くなると考えられます。なお、今年度(2022年度)、国立大学の奈良女子大学が工学部工学科を開設していますが、学修内容には建築分野も含まれています。女子大の理工系、とりわけ建築系学部が増えることは女子受験生にとって進路選択の機会が拡大することになります。中には国語を選択科目として受験できる入試方式もありますので注目です。

お茶の水女子大学、奈良女子大学、日本女子大学など国公私立の各女子大学で理系分野が拡充されていますが、従来、女子大と言えば、文学系と家政・生活科学系の学部学科が大学の中心を担ってきました。しかし、ここ数年、大きな変化が起きているようです。中でも栄養系の学部学科は、これまで管理栄養士養成課程など資格職業直結の学修が主でしたが、東洋大学(食環境科学)、愛知淑徳大学(食健康科学)など、これまでよりも学修のウイングを広げた学部学科が増えつつあるように見えます。資格取得だけではなく、食と健康をキーワードとした教育プログラムへ発展できないところに、これまでと同様に受験生が来てくれるかどうか・・・

ところで、今春(2022年度)入試の一般選抜では、多くの女子大が志願者数を減らしています。巷間、女子大離れと言われることもあるようですが、一般選抜で志願者数が減少しても総合型選抜・学校推薦型選抜が増えていれば、さして問題ではありません。いわゆる年内入試で決めた女子受験生が多ければ一般選抜の志願者数が減っても不思議ではありません。女子大の年内入試結果を集計したデータがあるかどうかは寡聞にして存じ上げませんが、ただ、主だった女子大だけを調べたところでは、年内入試での入学者数が増えているということは無いようです。女子受験生の進路選択の志向が大きく変わり始めているのかも知れません。

 

 

新設大学には公立の専門職大学も

新設大学は現在のところ3大学が予定されています(大学名、学部名などは現段階では全て仮称です)。公立大学は東北農林専門職大学(農林業経営)、私立大学は日本先端工科大学(工)、高知健康科学大学です。高知健康科学大学は設置予定学部がホームページ上では確認できませんが、医療福祉人材を育成することを掲げていることと、設置の中心となっているのはリハビリテーション系職業人の養成を行っている専門学校ですので、医療技術系、福祉系の学部になると考えられます。なお、日本先端工科大学のキャンパスは神奈川県小田原市が予定されており、首都圏の大学となります。

注目されるのは東北農林専門職大学です。専門職大学の設置によって、現在の山形県立農林大学校は専門職大学の附属学校になる予定となっています。農林業経営学部に農業経営学科(入学定員32名)と森林業経営学科(入学定員8名)の2学科が設置される予定です。分野としては農学系になると思われますが、マーケティングやマネジメント関係の科目履修も検討されていることから、既存の分野でいうと農学系の環境科学・経済システム系統に該当すると言えるかも知れません。入学定員が少ないので一般選抜の倍率が高くなることが予想されますが、県立であることを生かした教育が展開されることが大いに期待できます。

 

 

 

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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