2023年度入試も総合型選抜・学校推薦型選抜がほぼ終了し、いよいよ一般選抜が始まります。各種メディアでは受験生のチャレンジ志向が高まり、難関大学の人気が高いと分析されています。先日公表された大学入学共通テストの確定志願者数は昨年より約1万8千人減少するなど受験競争は緩和の方向に向かっています。受験生が「ひとつ上」を狙うのも当然のことです。その一方で、改組や学部新設を伴わず、学生募集を停止する大学も見られるなど、受験生には将来を見据えた慎重な大学・学部選択も求められてもいます。

 

 

大学入学共通テストの現役志願者数は1万2千人の減少

大学入試センターが12月6日に公表した2023年度大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の確定志願者数は、前年より約1万8千人の減少となりました。18歳人口が減少を続けていますので、減少は当然のことだと受け止められています。減少した人数のうち、現役生の減少数は1万2千人です。18歳人口の減少数は2万4千人ですので、その減少数に現役生の大学入学共通テスト志願率45.1%を乗じると1万800人となりますが、それ以上の減少数です。巷間言われているように、受験生、取り分け私大専願者の共通テスト離れが進んでいるのは間違いなさそうです。共通テストの志願者数の減少は、国公立大学の志願者数の減少にもつながり、私立大学の共通テスト利用方式の志願者数減少にも影響します。

その私立大学の状況ですが、河合塾の大学入試情報サイトKei-Net「入試動向分析 2023年度入試の概要」に気になるデータが掲載されています。出典は日本私立学校振興・共済事業団の調査結果からですが、ここ4年間の私立大学の規模別に合格率、歩留率の推移がグラフになっています。その結果を一言でいうと「小規模大学により厳しい環境」です。2019年から2022年度入試にかけて、私立大学の合格率は上昇しており、逆に歩留まり率は低下しています。2022年度入試での合格率は、小規模大学(収容定員4千人未満)で57%、中規模大学(収容定員8千人未満)44%、大規模大学(収容定員8千人以上)36%です。小規模大学は一般的に志願者・入学者における総合型選抜・学校推薦型選抜の比率が高いこともあるため、高い合格率になっています。大規模大学は一般選抜の比率が高いこともあり、合格率は低くなっており、受験者の6割以上は合格できないという数字です。受験生に人気のある難関私立大学はここで言う大規模大学と言っても差し支えはないでしょう。2023年度入試ではこの難関大学に人気が集まりそうです。

河合塾の大学入試情報サイトKei-Net
入試動向分析 2023年度入試の概要
https://www.keinet.ne.jp/exam/2023/overview/outline.html

 

国公立大学も私立大学も難関大学が人気

前述の「入試動向分析 2023年度入試の概要」では、国公立大学、私立大学ともに難関大学へのチャレンジ志向が鮮明になっていると分析しています。首都圏では一橋大学、横浜国立大学、青山学院大学、上智大学、早稲田大学などの人気大学が入試制度を変更するなど、大きな動きが見られることをも難関大学への注目度を上げています。受験生の眼差しは「ひとつ上」を見ているのでしょう。また、学部系統でも医学部、獣医などの人気が高く、私立医科大学は全国的見てどの地域でも人気が高まっています。獣医の人気も3年ほど続いていますが、国公私立大学を通じて、獣医学部や獣医学科を設置している大学数が限られるため、難易度が下がることは考えられません。

学部系統の動向で注目されるのは、女子受験生の志望が理、工、農に向いていると分析されていることです。今春、2022年度入試では、全国的にも多くの女子大学が一般選抜の志願者数を大きく減らしました。「女子大離れ」現象と一部メディアでも取り上げられていました。ただ、一般的には女子大は総合型選抜・学校推薦型選抜によるいわゆる年内入試入学者比率が高いため、年内入試で多めに入学者を確保していたのであれば、その分、一般選抜の志願者数が減少しても不思議はありません。ところが、全国の主要女子大の年内入試での入学者数を調べてみたところ、軒並み減少していました。どうやら、これまでとは状況が変わってきていると考えざるを得ません。これは上述の学部系統の志望動向とも関係していると言えます。女子大は伝統的に人文系学部と生活科学系学部で構成されている大学が多くなっています。しかし、近年、この両系統は男女を問わず不人気です。大学にとっては逆風ですが、ただし、こうした分野を希望する受験生には追い風と言って良いでしょう。

 

 

小規模私立大学の学生募集停止は3学部

もともと人気のある大規模大学がさらに人気を集める中で、学生募集を停止する私立大学もあります。ただ、学生募集を停止すると言っても、その代わりに新しい学部を設置したり、改組したりするなどのスクラップ・アンド・ビルドであれば前向きな募集停止と言えます。しかし、そうではない学生募集の停止は、当該私立大学が置かれた厳しい状況を表しています。該当する大学名を書き連ねるはいささか憚られるますが、ご関心のある方は河合塾の大学入試情報サイトKei-Net「2023年度 私立大入試変更点」で各大学の変更内容を見ていただくと当該私立大学の「変更内容」として「募集停止」と記載されています。これらの大学には大都市近郊に設置されている大学も含まれていますので、受験生が極端に少ない地域に立地しているという訳ではありませんが、いずれも収容定員4千人未満の小規模私立大学です。

折しも、文部科学省の大学分科会の大学振興部会では、「学生保護の仕組みの整備」が議論されています。「学生保護の仕組みの整備」と表現するとソフトな印象ですが、要するに「大学の経営破綻によって在学生・卒業生が困らないような仕組みをあらかじめ考えておく」ということです。論点としても、「破綻を避けるために学校法人(大学)が行うべきこと」、「破綻が避けられない場合に学校法人(大学)が行うべきこと」、「破綻リスクを低減するために国等が行うべき措置」、「破綻時に国等が学生を保護するために採るべき措置」、「撤退・破綻する大学に関する手続、取扱いの検討」など、とてもリアリティのある論点が示されています。

ただ、来年度に学生募集を停止する大学について言えば、複数ある学部のうち1学部を募集停止にしているだけですので、大学が無くなる訳ではありません。余力のあるうちに学生募集を停止して、在学生が卒業するまで責任を持って支援する、大学人の矜持を示したものと言えます。

河合塾の大学入試情報サイトKei-Net
2023年度 私立大入試変更点
https://www.keinet.ne.jp/exam/future/

 

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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