立命館大学では、2023年度入試から学部指定の学習プログラムの修了を出願要件にしたAO選抜を開始した。 大学での発展的な学びにつながる全国初の試みとして、高い注目を集めている。その導入の目的や初年度の成果などを入学センター事務部長の熊谷秀之氏に聞いた。

 

どの科目を「履修」したかではなく
どの科目・単元を「修得」したか

「入学者が、大学での学びをより高い次元で発展させられるような入試を行いたい」

立命館大学が導入した新しいAO選抜には、こうした思いがある。各学部で特に重要となる指定科目の単元を、所定のプログラムで学習・修了するとAO選抜に出願できるという画期的なシステムだ。その導入の背景を、熊谷氏はこう説明する。
「学科試験のない入試では、選考に高校の科目履修の有無や成績が用いられます。しかし、必ずしも履修=修得とはなっていません。私たちは、どの科目を履修したかではなく『どの科目のどの単元を修得したか』を見たいと長年考えてきました。その一つの解が今回のAO選抜だったのです」

初年度は、経済学部、スポーツ健康科学部、食マネジメント学部で実施。どの学部も数学的素養が必要だが、学部別に特に重要な数学の単元が指定される。
「どんな基礎学力が必要かは、その学部のアドミッションポリシーです。 この学部で学ぶにはこの知識が必要だと示されれば、受験生の目的意識も高まり、より主体的に取り組むことができます」

また、大きなメリットとして多様性の確保もある。従来のAO選抜では評定平均値が出願要件となる場合が多いが、海外を含め異なる成績評価法の学校では出願すらできない。専門高校であれば出願要件となる履修科目がないこともある。一方、このAO選抜であれば学校のカリキュラムや学習歴を問わないため、多様な学生が集まると予想できる。

個別最適化したAI学習システム
合格者の入学前教育にも活用

学習は「学部指定単元AI学習プログラム(通称UNITE Program)」を利用する。AI学習システム「atama +(アタマプラス)」を活用し、自身の習熟度にあわせてAIが最適化したカリキュラムで効率よく学習できるのが特徴だ。苦手な単元があれば、理解に必要な単元まで遡って学ぶこともできる。学習後は単元ごとの修得認定試験を受けるが、不合格でも期間内であれば何度でも挑戦が可能だ。

プログラムの出願・学習期間は高校3年次の5月から8月(2023年度入試)。出願や必要単元の学習、修得認定試験の合格までに約4カ月の期間があるため、部活や学外活動などに打ち込みたい高校生にも利便性が高い。

AO選抜に合格し入学が決定すれば、引き続きUNITE Programで学習した単元の次に重要な単元を入学前に学ぶ。この入学前教育までが一つのプログラムなのである。

主体的に学習に取り組む受験生
今年度は薬学部でも実施を

同大学によると、全国各地はもちろん海外からも受講者が集まり、多様な生徒に受験機会が拡大されたという。初年度の結果は表の通りだ。また修了者全員が修得認定試験を複数回受けており、一定の難易度の下、修了者がモチベーション高く学習に取り組んだ状況もわかる。

「修得認定試験はあくまで出願資格を得るためのものですが、多くの受講者が熱心に学習しています。入試では、大学側が受験生に学習する意義を正しく伝える必要がありますが、発信の仕方一つで、受験生の主体的な学習行動を促すことができると実感しました」

受験生の主体性をも促す新たなAO選抜だが、2024年度入試は薬学部でも実施し、今後も3、4学部ずつ拡大する予定だ。また、薬学部では化学を対象教科とするなど、教科の種類も増やす。

熊谷氏は「受験生には手段としての学力と今後のビジョンをセットで培ってほしい」と語る。立命館大学では「修得主義に基づいた未来型の入試」と位置付け、「受験生が努力すれば平等にチャレンジ可能な取り組み」としてより拡大していく。
 

立命館大学 入学センター事務部長
熊谷秀之氏

 

立命館大学

大学ジャーナルオンライン編集部

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