千葉商科大学では、2025年度に全学部改組を実施する。目的のひとつは、同大学が長年取り組んできた実学教育のアップデート。より複雑化する社会課題に対応するため、未来志向の学びを学生たちに提供していく。

改組後の人間社会学部は定員が200名から230名に増加。カリキュラムにも大きく手を加える。新たな教育のねらいや学部の特色について、現・人間社会学部の齊藤紀子先生に話を伺った。

 

高まる「サステナビリティ人材」の需要

 人間社会学部ではこれまで、社会課題を解決する事業の担い手である「ソーシャル・ビジネス人材」を数多く輩出してきた。蓄積された知見をもとに、今後は「サステナビリティ人材」の育成に舵を切る。

 同大学の考えるサステナビリティ人材とは、人・社会・自然のウェルビーイングを念頭に置き、持続可能な事業に貢献する人物。こうした人材は世界的に見ても需要が高まっていると、齊藤先生は分析する。

 「サステナビリティに関する国際的なルールづくりが進んでいます。たとえばEUが2023年に発効した「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」。環境や人権など幅広い項目に対して、企業の取り組みを公表するよう義務づけています。EUで事業活動を行う日本企業も対象となっており、適切に調査や発信のできる人材が必要です。」

 今後も世界中で規制が強まり、大企業のみならず中小企業にもサステナブルな取り組みが求められるようになるだろう。こうした流れに対応できなければ、市場を失う恐れがある。

 「質の良い商品やサービスをただ提供すればいい、という時代ではなくなりました。人権を尊重した働き方、環境負荷の少ない素材選びなどを、関係企業全体で徹底しなければなりません。中小企業でも、取引先からESGなどに関する調査報告を求められるケースも増えてきました。」

プロジェクト実習で協働力を育む

 サステナビリティ人材に求められる能力のひとつが「協働力」だと、齊藤先生は考えている。

 「ひとりですべての課題に取り組むことは難しいでしょう。個人の専門知を磨きつつ、他者とパートナーシップを組み解決策を生み出していく。そんな協働力が大事だと、強く思っています。」

 協働力を育むため、2年生以上が参加できる選択科目「プロジェクト実習」が新設される。これまでも教員と学生によるプロジェクトはあったが、主に授業外の時間が使われていた。正式な科目にすれば教員や学生の負担が減るだけでなく、多くの学生に訴求しやすくなる。

 プロジェクト実習では環境、地域活性化、商材開発など各教員の専門分野を活かした10種類のテーマを用意。学生たちはプロジェクトの進め方に関する基礎を学んだあと、同じテーマに関心を持つ学生とチームを組み、課題解決に取り組む。

 「理論を学んだあと、現場に出て教科書には書かれていなかった気づきを得ると、学生たちはその体験を自分の言葉で語るようになります。プロジェクト実習ではこうした経験を通して、建設的な思考も育んでほしいです。」

 齊藤先生のゼミにも、学生たちが自発的に社会課題の解決に取り組んでいる「ブルーベリープロジェクト」がある。
発足のきっかけは、2014~2016年に実施したJR久留里線地域の活性化に向けた調査。学生とともに沿線を歩きフィールドワークをするなかで、「ど根性栽培ブルーベリー」の農園を営む江澤貞雄さんに出会った。

 ど根性栽培ブルーベリーは農薬や化学肥料を使用せず安全・安心であることに加えて、大地に直接植えるため植え床づくりが不要でコストが低く、水やりがいらないため手もかからない。江澤さんはそんなブルーベリーを介してビジネスや地域活性化に取り組んでいる。

 その姿を見た学生たちは、「自分たちにも何か力になれることはないか」と思案。プロジェクトがスタートし、オリジナル商品の開発・販売などにつながった。

 「深掘りしていくうちに学生たちは、ブルーベリーを起点にすれば複合的な課題解決ができると気づきました。耕作放棄地の活用もできますし、農業の新規参入者でも育てやすいです。加工品を地域の名産にもできるでしょう。人・社会・自然のウェルビーイングに、ブルーベリーで貢献できる可能性を見出したのです。」

 プロジェクトではビジネスとして黒字運営をするだけでなく、サステナブルな観点も重視しているという。

 「支出を抑えるために人をタダ働きさせたり、環境に配慮していない素材を使ったりしては持続可能な事業とはいえません。ビジネスとして成り立たせながらサステナブルな調達をする、といった企業と同じ観点を学生たちは自ずと学んでいます。」

まだ見えない課題にいち早く気づくために

 新カリキュラムでは、「人・社会・自然のウェルビーイング」を考える科目も充実させた。たとえば1年生の必修授業として「ウェルビーイング概論」を実施。異なる専門分野を持つ複数の教員が、最新の社会情勢も取り入れながらウェルビーイングに関する基礎知識を教える。

 社会学の科目も増強。1年生の必修授業「社会学の世界」では、身近な社会現象をとりあげ、社会学的な視点と方法を学ぶ。

 「世の中には不可視化された問題が山積しています。社会学を学ぶことで、自分は不利益を被っていなくてもほかの人のウェルビーイングを妨げている構造がある、と気づけるようになるでしょう。その問題を解決する手段を考えるうちに、自分に必要な分野や科目が見えてきます。」

想定している卒業後の進路を尋ねると、齊藤先生からは「すべてです」と力強い返答があった。

 「問題を自分事としてとらえ、解決したいと思えるようになった学生は強いです。だからこそ今後はすべての場所が、卒業生の働くフィールドになると期待しています。今はまだ存在しない職種に就く人もいるかもしれませんが、業界や部署、企業の規模に関係なく、大学での学びが活かせるでしょう。」

 人・社会・自然のウェルビーイングに関する課題には、まだ顕在化していないものも少なくない。見えない課題にいち早く気づいて先手を打つのが、改組後の人間社会学部だといえるだろう。

 「サステナビリティに興味のある人はもちろん、やりたいことがわからない人や、協働の力を伸ばしたい学生も大歓迎です。人間社会学部の学びに心を惹かれたら、ぜひ足を運んでみてください。」

 新たなカリキュラムで、サステナビリティ人材を育てていく人間社会学部。千葉商科大学のホームページやオープンキャンパスで、詳細をチェックしてみてはいかがだろうか。

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千葉商科大学では、伝統の実学教育を発展させ、授業で学んだ知識や理論を実社会のさまざまなプロジェクトで試し、多くの気づきや発見を繰り返して成長する学びを実践しています。知識と経験の両輪から深く広く学び、自ら考え、意思決定し、未来を切り拓いていくことができる人材を[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

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