2024年度入試の国公立大学の前期日程は、募集定員8万486名に対して志願者23万2344名で、志願倍率は昨年と変わらず2.9倍となりました。志願倍率2.9倍と言っても、5倍を超えている学部学科もあれば、1倍台のところもあります。普通に見れば、高倍率なら合格しづらい、低倍率なら合格しやすいという判断になりますが、この数字だけでは本当の難易度は分からない学部学科もあります。
今回のコラムは、2024年度入試の「経済・経営・商学部系統」の中で、偏差値が高く、2024年度入試で低倍率の結果が出ている、横浜国立大学経済学部「LBEEPエルビープ」と、神戸大学経済学部「数学選抜」「英数選抜」、試験種により得意不得意の偏りが大きい人に向いている可能性が考えられる、大阪大学経済学部における、一般選抜前期日程の合格者の出し方についてレポートしていきたいと思います。
横浜国立大学 経済学部LBEEPの前期日程は、志願倍率1.4倍?これなら合格できるのか?
2024年度入試、横浜国立大学 経済学部LBEEP(Lawcal Business Economics Education Program)の前期日程は、募集定員10名に対して志願者14名となりました。河合塾偏差値でも65.0が付いていることもあり、警戒して志願者が減少したことも要因として考えられますが、志願倍率が低いから合格しやすいのかというと、そうなってはいません。その理由は、合格者の決め方にあります。募集要項には以下のような詳細が書いてあります。
(ア)志望できるプログラム(一般、DSEPディーセップまたは LBEEPエルビープ)は1つに限ります。選抜については、全てのプログラムの受験者を同一の基準で行い、一般プログラムの合格者として決定します。その合格者のうち、DSEPディーセップ志望の受験者は個別学力検査の数学科目上位成績者から、LBEEPエルビープ志望の受験者は大学入学共通テスト及び個別学力検査の偏差値の合計の高い者から合格者を選抜します。そのためDSEPディーセップまたは LBEEPエ ルビープを志望した場合でも、選抜の結果、一般プログラムの合格者となることがあります。
(イ) 入学後に、他のプログラムに変更をすることはできません。
※経済学部DSEP・LBEEPは、選抜の結果、合格者数が募集人員に満たない場合があります
経済学部として志願した全員を、一般プログラムの合格者として決定し、合格者の中で、LBEEP希望の人を抜き出して、大学入学共通テスト及び個別学力検査の偏差値の合計の高い者から合格者を選抜するという方法で、なおかつ合格者数が募集人員に満たない場合があるという注意書きもあります。そうなると、難易度は相当高いということが分かります。このような合格者の決め方をしているため、正確にはLBEEPで1.4倍ではなく、経済学部前期日程として倍率表記を出さないと正しい表記にはなりません。ただし、募集定員が割り振られており、志願者も一般・LBEEP・DSEPと分けて受け付けるため、予備校などで発表される倍率表記は、LBEEP1.4倍と出ることになります。大学のホームページでは、経済学部全体としての倍率のみが表記されています。
横浜国立大学には、法学部がありませんが、LBEEPでは、経済系科目に加えて、法学・政治学を総合的かつ実践的に学習することができるようになっており、特徴的なプログラムになっています。もしも高倍率になったとしても、一般としての合格もあるということは認識しておく必要はあります。
神戸大学 経済学部 数学選抜の志願倍率1.0倍、英数選抜の志願倍率0.7倍?これなら合格できるのか?
2024年度入試、神戸大学 経済学部 前期日程の「数学選抜」は募集定員30名に対して志願者30名、「英数選抜」は募集定員30名に対して志願者20名と、低倍率に。偏差値は、受験科目数が少ないこともあり、「総合選抜」よりも高い数値。しかし、低倍率だから合格しやすいかというと、そういうわけではありません。その理由は、やはり合格者の決め方にあります。募集要項には以下のような詳細が書いてあります。
「前期日程」は、「数学受験」「英数受験」「総合受験」の3区分で募集します。志願者は3区分のうちから1つを選択します。選抜は、受験した科目に応じて「数学選抜」「英数選抜」「総合選抜」で選抜します。
1)「数学受験」を選択した場合、個別学力検査において「数学(文系)」のみを受験し、「数学選抜」においてのみ入学者選抜の対象となります。
2)「英数受験」を選択した場合、個別学力検査において「数学(文系)」「英語」を受験し、「英数選抜」「数学選抜」において入学者選抜の対象となります。なお、「総合選抜」においては入学者選抜の対象とはなりません。
3)「総合受験」を選択した場合、個別学力検査において「数学(文系)」「英語」「国語」を受験し、「総合選抜」「英数選抜」「数学選抜」において入学者選抜の対象となります。
4)各区分で指定する個別学力検査の教科・科目を一つでも受験しなかった場合、全ての選抜において入学者選抜の対象となりません。
「総合受験」を選択すると、「総合選抜」「英数選抜」「数学選抜」のすべてが対象になりますが、「英数受験」を選択すれば「英数選抜」「数学選抜」の2つになり、「数学選抜」を選択すれば「数学選抜」のみが対象となる。このような合格者の決め方をしているため、正確には、数学選抜1.0倍・英数選抜0.7倍ではなく、経済学部全体の前期日程として倍率表記を出さないと正しい表記にはなりません。ただし、募集定員が割り振られており、志願者も数学選抜・英数選抜・総合選抜と分けて受け付けるため、予備校の倍率表記は、低倍率で表示されることになっています。大学のホームページでは、経済学部全体としての倍率のみが表記されています。
理系クラスで国語の2次試験対策をやっていない人や、本当に数学や英語がずば抜けて得意な人は、合格する可能性が高くなるため、お薦めできる入試ではあると思います。
大阪大学 経済学部、共通テストまたは個別学力検査等のどちらかが強烈に得意なタイプに有利なのか?
大阪大学経済学部は、2024年度入試においても低倍率にはなっていませんが、合格者の出し方が、他大学と大きく異なっているため、ピックアップして紹介していきます。国語・外国語・数学の3教科で2次試験を行っており、経済学部として出願するだけで選抜方式などの種類はありませんが、募集要項には以下のような詳細が書いてあります。
A配点 共通テスト540点 個別学力検査等 60点
B配点 共通テスト 60点 個別学力検査等540点
C配点 共通テスト300点 個別学力検査等300点
※A配点、B配点及びC配点は、受験者が予め選択するものではありません。
注)科目ごとの配点は省略しています。
A配点で上位65位以内にある者、同じくB配点で上位65位以内にある者を、まず合格者とします。(同じ受験者がA、Bいずれの配点でも合格となることがあります。)これらの合格者を除いた受験者の中から、C配点での高得点者順に合格者を決定します。
共通テストの配点が極端に高い「A配点」、個別学力検査等の配点が極端に高い「B配点」を優先して合格させることで、共通テストの成績が想定よりも極端に良かった受験生や、逆に想定よりも極端に悪かった受験生にもチャンスがある、他大学ではあまり見ない特徴的な合格者の決め方になります。
2023年度入試の合格最低点を見ると、A配点で合格しようとした場合で共通テストが最低点の449.7点(83.3%)だった場合、個別学力検査等では44.9点(74.8%)が必要になり、B配点で合格しようとした場合で個別学力検査が最低点の384.6点(71.2%)だった場合、共通テストでは48.9点(81.5%)が必要になります。これらの合格最低点の情報を総合して考えれば、共通テストまたは個別学力検査のどちらが得意な場合でも、より極端に点数がとれていないと合格することは難しいと考えられます。ただ、このようにどちらかに偏った配点で合格した人が、大学入学後にどのように成長していくのかは、興味深いところではあります。
偏差値上位大学の入試で「数学」が必須になっているところが多い経済学部。合格者の出し方も多様化していくのか?
偏差値上位大学の中では、上記の横浜国立大学経済学部、神戸大学経済学部、大阪大学経済学部のように、特徴的な入試や合格の出し方を採用している大学があります。また、数Ⅲまで必須にしている、京都大学経済学部理系入試、東北大学経済学部理系入試、九州大学経済学部経済工学科などもあります。
文理融合や、総合知がますます重要になってくる中で、社会科学系学部の入試は、数学をどのように絡ませるかの検討をする大学も出てくるのではないかと考えられます。学ぶ内容が一番重要ではありますが、入試も単純ではないものもあるので、しっかりと調べて志願大学を決めていく必要があります。
特に、理工系学部希望者でデータサイエンス関連から社会科学系学部に途中から興味を持った生徒には、知っておいてもらいたいと思います。