国公立大学の後期日程が終了し、2024年度入試も終盤を迎えています。各大学の志願状況もほぼ確定しつつあり、現段階での集計結果を見ると全体として志願状況は好調と言えます。新課程入試前年による安全志向も予想されていましたが、難関大学も志願者数が増加しています。これまでの新課程入試前年とは状況が異なり、受験生が果敢にチャレンジしている傾向が見て取れます。ただし、志願者数増減には大学間格差も見られます。

 

18歳人口減少期も国公立大学志願者数は昨年並、私立大学志願者数は増加

 国公立大学の志願者数は全体で前期日程が前年比100%、後期日程が前年比100%、中期日程は前年比98%とほぼ昨年並となっています。ただ、今年も国公立大学で欠員補充2次募集が実施されるなど、18歳人口が減少し、私立大学の半数強が定員割れする中、国公立大学でも安泰とは言えない状況のようです。一方、私立大学一般選抜の志願者数は、現段階での集計値(河合塾集計、3月8日現在)では、全体で前年比102%と増えています。しかし、依然として学部系統や大学による人気の格差が見られるなど競争環境が以前よりも厳しさを増しているようにも見えます。

 来年の2025年度入試は高校の学習指導要領改訂後初めての入試となる、いわゆる新課程入試ですので、今年の2024年度入試は、その前年入試という位置づけです。これまで幾度となく新課程入試が行われてきましたが、その前年の入試は例外なく受験生が安全志向になります。それは現高校3年生にとっては、仮に現役で志望校に合格できず、再チャレンジすることになった場合、新課程入試で受験する教科・科目は、自分たちが履修した時と内容が変更されていたり、あるいは履修していない全く新しい教科・科目となったりすることになります。これを不利に感じて、一般的には手堅く現役合格を目指す受験生が増加します。

 しかし、今年は例年とは傾向が異なります。国立大学の難関10大学(旧7帝大+一橋大学、東京工業大学、神戸大学)志願状況は前期日程も後期日程も前年比100%となっており、最難関の東京大学、京都大学の前期日程は昨年よりも志願者数が増えています。前期日程は北海道大学、東京工業大学、大阪大学でやや減っているもののほぼ昨年並の志願者数です。大学入学共通テストの平均点が昨年の大幅アップに続き、ややアップした影響もありますが、今年の受験生は自分の志望を貫く強気の出願だったと言えるでしょう。

 私立大学の志願者数は全体では、一般方式が前年比101%、共通テスト利用方式が前年比105%となっており、合わせると前年比102%です。昨年の私立大学の志願者数は前年を割り込み、大学冬の時代到来とも言われていましたが、今年はやや盛り返しています。

参考:河合塾の大学入試情報サイト Kei-Net 2024年度入試情報
https://www.keinet.ne.jp/exam/future/

文・人文、理、芸術・スポーツ科学は国公私立大学ともに増加

 学部系統別に志願者数の前年比を見ると、国公立大学前期日程では文・人文学系105%、経済・経営・商学系101%、理学系103%、歯学系106%、芸術・スポーツ科学系102%、総合・環境・情報・人間科学系(いわゆる学際系)108%となっています。この中でも前年からの伸びが目立つ総合・環境・情報・人間科学系は、情報系での伸びが全体の数値を押し上げていると言えます。近年、国公私立大学を問わず新設が目立つデータサイエンス系の学部学科がこの分野に分類されており、今年はお茶の水女子大学(共創工学部文化情報工学科)、熊本大学(情報融合学環)、下関市立大学(データサイエンス学部)、高知工科大学(データ&イノベーション学群)が新設されたことも影響して志願者数が増えています。資料をつぶさに調べた訳ではありませんが、学部学科名称で「&」マークが付いている大学は初登場なのではないでしょうか。

 私立大学で前年比が全体平均以上の学部系統は、文・人文学系103%、社会・国際系108%、法・政治学系103%、理学系111%、農学系104%、医学系111%、芸術・スポーツ科学系104%です。さらに詳細な系統別の志願者数は掲載されていませんが、これまでの状況を見ると文・人文学系では外国語系統や神・仏教系統の志願者数が増えています。宗教系の人気が上がっている理由は、上智大学や同志社大学などの難関大学でも比較的入試難易度が与し易いとか、ウェルビーイング志向があるとか、一部の若年層に高度な教養志向が見られるなど諸説ありますが、明確な理由は不明です。

 国公私立大学で共通して前年比が伸びているのは、文・人文学、理学、芸術・スポーツ科学の3系統です。中でもスポーツ科学系統の分野は、スポーツ、健康科学、データサイエンス、栄養科学など教育分野や研究領域に広がりが見え始めています。、従来の競技者・アスリート養成にとどまらない新設学部が増えています。医学・医療系にも近接する分野でもあるため、今後も複数の分野と融合した新しい学部学科が設置されるものと予想されます。また、芸術学系もここ2~3年は人気が高い状態が続いていますが、ファインアートの人気と言うよりは、デザイン系やクリエイティブ系の分野を志向する受験生の動向が影響しているものと考えられます。

国公立大学では隔年減少による極端な志願者数の増減も

 冒頭で志願状況は全体としては好調と書いていますが、大学別に見ると当然ながら大学間で差があります。河合塾サイトの集計データでは、大学別の集計が掲載されており、国公立大学は全大学、私立大学は主だった大学の大学計を見ることができます。

 この資料を見ると各大学の志願者動向が分かります。国公立大学は例年、極端な志願者数の増減が見られる大学がありますが、今年も散見されます。国公立大学の一般選抜は、大学入学共通テストを自己採点して、各社の予想ボーダーを見てから出願する仕組みのため、前年倍率が低かった大学や予想ボーダー得点率が相場感よりも低い大学に出願が集中する現象が起きます。また、その逆の現象もあります。今年の場合、国公立大学で増減が目立つのは次の通りです。なおカッコ内の%は志願者数の前年比です。

北見工業大学(前期188%、後期158%)、秋田県立大学(前期151%)、川崎市立看護大学(前期46%、後期48%)、新潟県立看護大学(前期154%)、三条市立大学(中期59%)、公立諏訪東京理科大学(前期63%)、長野県看護大学(前期157%)、静岡県立農林環境専門職大学(前期45%)、豊橋技術科学大学(前期42%)、奈良県立医科大学(前期49%)、岡山県立大学(中期65%)、公立鳥取環境大学(前期62%、後期68%)、山陽小野田市山口東京理科大学(前期52%)、香川県立保健医療大学(前期54%)、宮崎公立大学(前期222%、後期236%)。

 前年に比べて志願者数が半分以下になったり、倍になったりするのは学部数が少ない小規模大学でよく見られます。学部数が少ないことから学部系統人気の影響を受けやすいことに加えて、倍率が極端にアップダウンする隔年現象が起きやすいことが理由です。

 私立大学は未集計の入試方式もあるため、あくまで現時点の集計ですが、増加した大学だけを見ても、獨協医科大学(145%)、学習院女子大学(174%)、大東文化大学(135%)、中部大学(176%)、神戸女学院大学(354%)、産業医科大学(141%)と都市部立地の大学で増加が目立ちます。

 今後は、倍率などの入試結果や入試難易度などさらに詳細な情報が各受験メディアで公表されていきます。コロナ禍以降、人気が低迷していた国際系や観光学系の回復、獣医人気の継続、医療系など資格系の動向に加えて、不祥事大学の動向や人気の下降が目立つ女子大の動向など注目ポイントは多々あります。ただ、次年度2025年度入試は新課程入試ですので、新課程入試による入試科目の変更に加えて、新設学部の設置に関連した入学定員の増減など倍率に直結する変更点も出てくることが予想されます。そろそろこうした情報にも眼を配っておく必要があるでしょう。

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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