教育だけでなく、地域に貢献できる取り組みも求められている昨今の大学。地域貢献をいち早く重要視し、基盤を整えてきた大学のひとつが北九州市立大学だ。学生たちの活動を支える地域共生教育センター、地域に貢献できる人材を育てる地域創生学群など、さまざまなかたちで学内外をつないでいる。

北九州市立大学がめざす地域貢献、そして学生たちが得る学びとはどのようなものだろうか。北九州市立大学副学長(学生支援、就職支援、社会貢献等担当)の内田晃教授にお話をうかがった。

 

成長につながる地域活動の機会を提供

 「地域と歩む」をビジョンのひとつに掲げている北九州市立大学。地域と学生がともに成長することをめざし、地域活動や実習などを積極的に行っている。内田教授も「地域の人々に求められる大学であるべきだ」と考え、教育や研究、そして学生たちの地域活動支援に携わってきた。

 特徴的な取り組みのひとつが、2010年4月に開設された地域共生教育センター(通称421Lab.)。専任の教員と学生運営スタッフたちが、地域活動を支えている。

 「これまでも教員や学生たちが個人的に地域活動をしていましたが、それを全学的に支援する組織として421Lab.が設立されました。大学が有する資源、つまり教員や学生の力は、地域貢献活動において大きな力になると期待されています。大学が地域とともに生きると同時に地域活動を通じて教育の場を提供するということを意識して『地域共生教育センター』と名付けられました。」

 421Lab.では学生考案の企画や、地域から要請があったさまざまな活動を実施している。現在の常設プロジェクトは20。子ども食堂の運営、防災、地域の環境美化、小学校の教育支援など、内容は多岐にわたる。プロジェクトメンバーとなっている約400名の学生だけでなく、421Lab.に登録した約2000人の学生たちも単発のプロジェクトに参加することがあるそうだ。


 421Lab.では学生がきちんと成果目標を立てて学ぶことにも重きを置いている。そのため「単なるボランティアセンターではありません」と内田教授は語った。

 「421Lab.のベクトルが向かう先は『学び』。社会との接点を持ちながら学生の成長機会を促しているのです。そのため単発活動を学生に発信するときも、教員が『これは学生の成長につながるか』をきちんと判断しています。学生は無料で働いてくれる人手ではありません。準備から振り返りまでを含めて、学生の成長につながる地域活動でなければ、大学として取り組む意味がないと考えています。」

地域貢献の基盤となる5つの力を育む

 北九州市立大学のなかでも、とくに地域貢献との関係が深いのが地域創生学群だ。2009年に開設され、地域で活躍できる実践力のある人材を輩出してきた。

 地域創生学群では、地域貢献の基盤となる5つの力を身につけられるカリキュラムを用意している。(1)地域の再生や創造に関する専門知識、(2)知識を活用するための技能、(3)地域課題を解決するための思考・判断・表現力、(4)コミュニケーション力、(5)自律的な行動力だ。なかでもコミュニケーション力はすべての活動の基盤になるという。

 「地域創生学群は入試でも、集団討論か個別面接のどちらかを課しています。組織や社会で活動するには、コミュニケーション力が不可欠だからです。きちんと意見を言う力や、周りを見て判断する力がある程度身についていることを前提に、その能力が自ずと高まっていくカリキュラムを組んでいます。」

 地域創生学群のカリキュラムには、コミュニケーション力を高められる内容がいくつも用意されている。たとえば1年次に必修となるFMラジオ番組制作実習。5~6名でチームを組み、1時間の生放送番組を作りあげる。テーマとするのは「北九州地域の課題」。解決方法なども学生たちが考え、番組内で紹介する。地域の方への取材、パーソナリティーとの打ち合わせなど、他者と積極的にコミュニケーションをとらなければ、番組が成り立たない。

 1、2年生が合同で行う地域創生実習も特徴的だ。13の実習から1つを選び、2年間かけて携わる。
事例のひとつが猪倉実習。高齢化と人口減少が進んでいる猪倉地域で、農業を中心とした地域活性化に取り組む。学生たちは地域の人々のニーズを聞き、訪問販売や生活支援サービス、地域のお祭りへの出店、芋焼酎作りなど、農作業だけにとどまらない地域活動をしてきた。

 地域創生実習のような学年横断的な学びには大きな利点があると、内田教授は考えている。

 「2年生は地域の人たちとの付き合いの実績が1年違うので、実習の指導者としても頼りになります。どのタイミングで何をすべきか、この人にはどういうアプローチが適切かなど、培ったノウハウを後輩に伝えてくれるからです。また、毎年新たなメンバーが入ってくるため、チームビルディングやコミュニケーションなどのスキルも身につきます。こうして得た力は、2年生以降のゼミでも役立つでしょう。」

地域活動で得た学びは、人生の糧になる

 地域活動を通して、コミュニケーション力をはじめとする5つの力を磨いていく学生たち。卒業後は「地域ですぐに活躍できる人材になる」と、内田教授は自信を持って語った。

 「社会で生きる土台となる力はすでに大学で習得しています。卒業後、職場での専門性をさらに付加していけばより大きく育つはずです。」

 最後に内田教授は、大学選びの観点のひとつとして「地域貢献」に目を向けてみてはどうかと提案した。

 「学部や学科、得られる資格だけではなく、その先の人生も見据えて大学を見ていただきたいです。本学は学外にも学びのフィールドが充実しています。地域活動は学生自身の学びにつながるので、ぜひ参加していただきたいです。
保護者の方には、本学が地域活動を通した学びの機会を数多く用意していることを知っていただければと思います。そこに参加して学びを得れば成長につながりますし、社会で自信を持って語れる経験にもなるはずです。就活だけでなく、その先のステップアップにも影響を与えるでしょう。」

 学生時代に地域貢献で培った力や経験は、その先の人生を支えてくれることだろう。大学選びの観点のひとつに、「地域貢献」を加えてみてはいかがだろうか。

大学ジャーナルオンライン編集部

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