2024年7月14日(日)、青山学院大学相模原キャンパスにおいて女子中高生向けの研究室ツアーが開催された。全国的に、女性比率の低さが問題視されている理工系学部。青山学院大学で学ぶ女子学生たちは、その原因をどう考えているのだろうか。イベント内のパネルディスカッションの様子や、参加教員・学生のインタビューをお届けする。
STEM分野・・・「Science(科学)」「Technology(技術)」「Engineering(工学)」「Mathematics(数学)」の頭文字をとった4つの教育分野の総称
理工学部物理科学科 坂本研究室ツアー「超小型速報実証衛星ARICA」について紹介
現役大学生&大学院生が思う「STEM分野の壁」
本イベントは公益財団法人山田進太郎D&I財団が、STEM分野のジェンダーギャップ解消をめざして立ち上げたプログラム「Girls Meet STEM College」の一環。全国24大学(2024年7月現在)の理工学系学部と共同で、STEM分野を身近に感じられる取り組みを行っている。
青山学院大学で開催されたイベントでは、理工学部や大学院理工学研究科で学ぶ女子学生が本音で語り合うパネルディスカッション、実際に研究室を見学する研究室ツアー、中高生と大学生・大学院生による座談会などを実施。文理選択に迷いのある女子生徒たちに、STEM分野の魅力やキャンパスライフの実態を伝えていた。
パネルディスカッションには3つのテーマを用意。「理工学部への進学を考えたとき、迷ったことや困ったこと」、「なぜ理工学部には女性が少ないのか」、「進学前後のイメージの変化と、高校生に伝えたいこと」を学生たちが語り合った。
学生によるパネルディスカッションの様子
「理工学部への進学を決めるときの悩み」については、ほとんどの学生が「もともと興味のある分野だったため迷わずに決めた」と回答。しかし大学院理工学研究科理工学専攻電気電子工学コース博士後期課程2年の橋本恵里さん(学部時代は理工学部電気電子工学科)は、もともと国語が得意だったものの、ものづくりへの興味からSTEM分野を選択したと明かした。
「数学は苦手教科で高校の先生からも反対されましたが、理系の方が自分の興味関心を満たせると思い、がんばって勉強しました」という橋本さん。高校時代は文理選択が3年次と比較的遅めだったため、じっくり悩みながら文理両方の勉強に打ち込んだ。早いうちから文理選択をしなかったことが、理工学部進学にプラスの影響をもたらしていた。
「なぜ理工学部には女性が少ないのか」というテーマにはさまざまな意見が。大学院理工学研究科理工学専攻知能情報コース博士前期課程1年の的場未奈さん(学部時代は理工学部情報テクノロジー学科)は、「数字への抵抗感」と答えた。高校では、数学Ⅲを選択していた女子がわずかだったという的場さん。高校の授業選択の時点でSTEM分野への壁ができてしまっていることを指摘した。
また、大学院理工学研究科理工学専攻基礎科学コース博士後期課程2年の大林花織さん(学部時代は理工学部物理・数理学科)は、「中学や高校の理数系科目の先生には男性が多かったので、理系に女子が進む、というイメージを持ちにくい印象がある」と回答。「ドラマでもSTEM分野は男性の職業として描かれることが多く、女性が理工学系に興味を持てる機会が少ない傾向にあるのでは」と危惧していた。
「進学前後のイメージの変化」では、入学前は理工学部を「真面目そう、難しそう」と思っていた学生が多数。しかし入学後は「気さくで明るい」、「難しいこともあるが悩みはない」とイメージが変化したそうだ。
最後に中高生へのメッセージを尋ねられると、ほとんどの学生が「学部・学科の男女比ではなく、やりたいと思った内容を選んでいい」と、STEM分野進学を後押ししていた。
女子比率50%超えの学科も! 青山学院大学理工学部の今
イベント後、理工学部化学・生命科学科の諏訪牧子教授に感想をうかがうと、確かな手応えを感じた様子で答えてくれた。
「今回のイベントでの企画としては現場の女子学生の声をとにかく取り入れることに注力しました。その甲斐もあって、終了後はみなさん笑顔だったのが印象に残っています。今回のように理工学部の研究室を訪れたり、学生と実際に対話する体験は、大きな意義があるはずです。女性の先輩というロールモデルからの経験談を聞く機会を持つことで今後はSTEM分野進学が選択肢のひとつになるのではと思いました。」
「2035年にSTEM系の学部に進学する女性の比率を28%にする」という山田進太郎D&I財団の理念に賛同し、「Girls Meet STEM College」への参加を決めた青山学院大学。2024年度の理工学部女子学生の比率は平均19%で、まだまだ差がある。ただし化学・生命化学科の女子比率は50%を超えている学年もあると、諏訪教授は語った。
「化学・生命化学科の女子比率は、どの学年も40%以上です。しかし電気電子工学科、機械創造工学科は10%前後になっています。無意識のバイアスといいますか、なんとなく女子は行きにくい分野、というイメージが強いのかもしれません。一方で化学・生命化学科は食品、化粧品、薬品などとの関係が深く、比較的身近な分野なので取っつきやすい可能性があります。ほかの学科でも、例えばAIを使えばこんなことができる、最先端のロボットが世界をこのように変えていくだろう、など、学科で学ぶ先のイメージがわきさえすれば進学希望者が増えると思います。」
必要性を感じているのは、STEM分野に興味を持たせるきっかけづくり。今回のイベントでも研究室ツアーや学生たちとの交流で、中高生の興味を呼び起こしていた。
理工学部化学・生命科学科 平田研究室ツアー「魚をモデルにした研究で人間の病気や老化を解明」
理工学部数理サイエンス学科4年生の奈良野綾花さんも、「参加者の中高生の中には、文理選択や将来について悩んでいる人も多かったです。しかし身近に理系の人がいない、話を聞く機会がそもそもない、という人もいました。だからこそ今回のような機会を増やし、理系のイメージを具体的に知ってもらうことが大切だと思います」と感想を語った。
男女問わず、学びたい人の背中を押す
理系学部の学費は、文系学部に比べて高い傾向にあることや、大学院まで進学した場合の金銭面・年齢面の不安もハードルになっている。諏訪教授は、「理系は実験や研究にどうしてもお金がかかります。それはさまざまな専門的な内容を教えているからで、仕方のないことです。」と前置きしたうえで、次のように述べた。
「学費の高さを理由に進学をあきらめてほしくありません。ですから本学では多様な奨学金や、成績優秀者の学費の一部または全額を免除するような制度も用意しています。とくに大学院の博士後期課程は、授業料が全額免除。さらにAGU Future Eagle Project(FEP)という、優れた博士後期課程学生の育成を目指すプロジェクトの奨励学生には、月額18万円の生活支援費と、年間25万円の研究費を支給するなど学生が研究に専念できる環境を整備しています。
また、イベントでは保護者の方から、就職先の選択肢が狭まるのでは、という不安も聞かれました。しかし私は、これからの時代は博士号を取得した女性は最強だと思っています。博士号を取得するハードルは、決して低くはありませんが、それを乗り越えていくためにどうするか考え、研究者として取り組んで得た力は、社会でも生かすことができます。それに加え、女性ならでは特質や発想などが加わると思うのです。実際に卒業生をみると、女性の博士号取得は就職でかなり有利になっていますし、大手企業などに就職した事例も多いです。学内で気楽に『ドクターまで行きましょうよ』と言えるくらいの雰囲気を作っていきたいですね。」
青山学院大学理工学部がある相模原キャンパス
理工学研究科理工学専攻基礎科学コース博士後期課程2年の大林花織さんは、FEPの支援制度に背中を押され、進学を決めた。
「私も大学院に行くときに親から今後のライフステージに対する考えを聞かれましたし、『同期が社会に出て自立しているのに、自分はこのまま学生としてやりたいことをしていいのか』と悩んだときもありました。そんなときFEPの支援制度に背中を押されて。私のような悩みで萎縮する人を減らし、博士課程進学を応援する制度があるなら、それに乗ってみようと思えました。」
FEP支援制度を利用してペンシルベニア州立大学へ留学をした大林花織さん
ほかにも学科の枠を超えて女子学生が集える機会をつくるなど、今後取り組みたいことは尽きない。諏訪教授も「学部内の横の繋がりも強化していけたら良いと思います。今まで以上に性別関係なく好きなことに取り組める環境になるよう、計画を進めています。」と、意欲を示していた。