デジタルマーケティングを通した留学生獲得展開――三輪仁志氏(立命館アジア太平洋大学)

 立命館アジア太平洋大学は、学生数の半分にあたる約3,000人が海外からの留学生で、学内のすべての部門が留学生に対応できる環境を構築し、日常的に留学生の学生生活をサポートしている。アドミッションズ・オフィス(国際)の三輪仁志氏は、一般的に「マーケティングファネル」と呼ばれる認知→興味→検討の3つの段階を意識して留学生の獲得施策を検討していることについて触れ、「同時にたくさんのことをたくさんの人に伝えようとしても、何も誰にも届かない」という考えにのっとり、「ペルソナ」を設定したうえでLP(ランディングページ)や広告を制作・展開などマーケティングの実践例をしていると紹介した。

 

 ペルソナ設定とは「どのような人に届けたいのか」をイメージし、その人の属性、人柄、生活スタイル、趣味価値観など可能な限り詳しく設定して「理解」することである。三輪氏は実際に使用した設定資料を見せながら、「日本留学に関心があるが、日本語能力に自信がない人」をペルソナとして設定し、LP(ランディングページ)や広告を制作し、展開したことや、今年7月から『WOVN.io』を導入して15言語展開していることについて触れた。

 

 

登壇者
立命館アジア太平洋大学 
アドミッションズ・オフィス(国際)
三輪 仁志

 

 

留学生志願の後押しにも寄与する学生向けオウンドメディア――中村 仁氏(早稲田大学)

 早稲田大学学生部学生生活課広報デスク専任職員の中村仁氏は、1996年に創刊した学生向け広報誌『早稲田ウィークリー』の英語化について語った。

 

 創刊当初は紙媒体だった『早稲田ウィークリー』は、2016年に完全Web化。週刊から毎日公開に運用を切り替え、現在は5つのコンセプトに基づいて大学公式Webマガジンとして記事を公開している。学生目線で読みやすい内容・質・量を目指しており、受験生からも好評で、「在学生向けオウンドメディア」であるとともに、「良質なリクルーティングコンテンツ」としても機能しているという。

 しかし、『早稲田ウィークリー』には「英語化ができていない」という課題があり、Web化した2016年当時、全学生の約15%にあたる留学生に対して十分な情報発信ができていなかった。そのため2016年の完全Web化に伴い、記事制作が落ち着いた学期末などに5本程度の記事を翻訳業者に依頼して英訳・公開。その後、広報課のネイティブスタッフと連携して、毎週2~3記事をピックアップし、要約翻訳したうえで公開するに至った。しかし、これらの施策ではそもそも数が少なく、タイムリー性もなく、人的コストもかかる。そこで、2024年の春学期に『WOVN.io』を導入した。

 中村氏は、『WOVN.io』の導入により、「留学生が本学をこれまで以上に理解でき、愛校心が育つ」「広報課との連携により、大学の英語TOPページ経由で対外的に海外向けにも情報発信ができる」「海外SEO対策により、世界中にいる留学志望者が本学のサイトを認知しやすくなり、大学に興味を持ってもらいやすくなった」などのメリットが生まれたと言及した。

 

 

登壇者
早稲田大学 
学生部学生生活課広報デスク専任職員
中村 仁

 

 

留学生リクルーティングの世界的動向と日本の留学生リクルーティングの課題と展望――太田浩氏(一橋大学)

 最後に登壇した一橋大学全学共通教育センター教授の太田浩氏は、留学生リクルーティングの世界的動向を踏まえ、日本の留学生リクルーティングの課題と展望について語った。

 

 太田氏は「留学需要は世界的に増加傾向にあり、アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリアの主要ホスト国が競合しており、近年は、従来の留学生供給国もホスト国にシフトしている」という点について触れた。有望視される市場としてはネパール、スリランカ、ナイジェリアなどがあり、留学生獲得の拡大には「移民対策」「将来の労働力需要推計に基づく明確な外国人材雇用政策」、この二つと「留学生獲得戦略との連携」が不可欠だとした。

 主要ホスト国の政策的動向については、イギリスが2030年までに留学生数を60万人に増加させる政策を2019年に打ち出し、わずか2年で達成。アメリカはSTEM教育を受けている学生に対して、専攻と関連のある分野での企業研修や就労を可能とする「OPT」プログラムを延長するなどの施策を打ち出していることを紹介した。このように、留学生の受け入れ増加を推進する一方、地政学的緊張の高まりや移民問題などにより、直近の1年間では、欧米の主要ホスト国が留学生受け入れを抑制する政策にシフトしつつある。そのため、日本をはじめとする東アジア諸国にとって、留学生獲得を強化する好機が来ていると語った。

 さらに、留学生エージェントの活用やテクノロジー活用についての事例も紹介。主要ホスト国では、データに基づくリクルーティングが重視されており、デジタルマーケティングを留学希望者への接触機会や合格者の入学率を増加させるために活用していること、オンラインで一度に複数の大学に出願できる「コモンアプリケーション」を普及させていることなどを紹介した。

 国際教育交流機関のNAFSAは、「2018~2019年の2年間で100万人以上の留学生がアメリカの大学に在籍し、46万人の雇用を生み出し、419億ドルの利益を創出した」と発表している。アメリカの大学では、留学生の獲得が大学のミッションを実現する施策の一つとして認識されており、国際アドミッション担当者が専門職として採用され、予算も潤沢に配分されているという。日本は移民政策を持たず、厳格な定員管理のもと、収容定員の許容範囲内で留学生を受け入れている。オンラインで応募が可能で、出願後1週間以内に合否が出る主要ホスト国に対して、日本の大学は国内向け入試に合わせて留学生入試を行うため応募機会が少なく、応募期間も短い。何よりも、語学学校経由が前提となるため、「日本留学は投資する時間とコストに対するリスクが大きい」と判断される可能性もあると指摘した。

 国内基準ではなく、競争相手となる諸外国の政策と実績を分析したうえで、外部の専門家も活用しながら、意思決定者のマインドセットを転換しつつ施策と行動計画を設定し、迅速に実行すべきであると、助言を呈した。

 

 

登壇者
一橋大学 全学共通教育センター教授
Hitotsubashi University Global Education Program (HGP) ディレクター
太田 浩

 

 今回のイベントでは、大学の事例紹介から留学生リクルーティングの最新動向に至るまで、さまざまな視点から留学生獲得に向けた戦略について紹介があった。少子高齢化が進む日本において、留学生の獲得は大学存続の鍵となることだろう。一橋大学の太田氏が示唆したように、いち早く世界に目を向け、海外の留学生リクルーティング状況を分析し、必要な施策につなげていく姿勢が大学に求められていくだろう。

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