間近に迫った2025年度一般選抜ですが、今春入試結果に続き、国際系の人気が継続しそうです。理系では情報系の盛り上がりはほぼピークアウトしており、入学定員が増加するものの志願者数は伸びないと見られています。つまり易化です。河合塾の大学入試情報サイトKei-Net「全統模試からみる2025年度入試の志望動向」の記事から、2025年度入試における人気・不人気の学部系統について考えます。

 

国公立大(文系)で人気の学部系統は外国語と経済系

 「全統模試からみる2025年度入試の志望動向」記事を見ると、学部系統別の志望動向がグラフで掲載されています(参考1)。模擬試験における国公立大学志望者数全体(前期日程)の前年比が102%ですので、この数字以上であれば相対的に人気があり、下回ると人気が無いと見ることができます。記事の見出しは「国際系人気復活、コロナ禍からの脱却」とあります。

 もう少し詳しく見ていくとグラフが昨年より伸びているのが文・人文系では「外国語」、「地域・国際」で、「国際関係」はほぼ昨年並みです。そのため、国際系の人気復活といってもコロナ禍前のいわゆるグローバル系学部の人気とはやや異なるように思われます。国公立大学で「外国語」志望者の多くを占めているのは外国語大です。代表的な大学は東京外国語大と大阪大外国語学部です。そのため、外国語大の人気が高まっていることが推測されます。生成AIの登場以降、自動翻訳によって外国語を活用できる人材が不要であるかのような言説も見られます。しかし、外国語学部は語学学校ではありません。その国の文化や社会や生活など地域の特性も深く学びます。外国語学部を目指す受験生たちは、さらに深い次元でグローバル化社会での共生を捉えているのでしょう。「地域・国際」に分類されている多くの学部学科が、地域文化、比較文化、言語文化などの分野であることも、そのことと関連しているものと思われます。

 社会科学系では「経済・経営・商」志望者数が伸びており、特に女子志望者が伸びています。ここ数年、一定の人気がある学部系統ですが、恐らくは来年は18歳人口の増加に伴い、大学志願者数の実人数が増えることが影響していると推測されます。「経済・経営・商」系統の志望者数は、人文・社会科学系のいわゆる文系では最大規模です。以前、筆者の同僚が経済学部を高校になぞらえて、大学における“普通科”だと称していたことを思い出しましたが、まさにそれ故に人口増の恩恵をストレートに受けているものと思います。

参考1:【Kei-Net】全統模試からみる2025年度入試の志望動向
https://www.keinet.ne.jp/exam/2025/overview/trend.html

国公立大(理系)で人気の学部系統は理、工、獣医、歯

 理系では理学系の「物理」の人気が高く、これは昨年から継続しています。理学部を設置しているのは伝統的な難関国立大学であることも多いため、難関大志向(チャレンジ志向)の影響を受けていると見られます。工学系の「土木・環境」、「応用化学」は女子志望者の伸びが顕著です。実は建築系と同様に工学系の中では「土木・環境」志望者の女子比率は以前より高く、最近では社会におけるロールモデルも増えていることも影響しているのかも知れません。また、理系の女子志望者は理科では化学の選択者が多いため、「応用化学」が伸びているのは理解できます。ここは農学のバイオ系を選ぶか、理学の生命科学系を選ぶか、悩ましいところかも知れませんが、工学の応用化学系であれば、全国で設置されていますので地元進学を考えて選ばれている可能性も考えられます。

 さらに、ここ数年続く「獣医」は来年も人気のようです。この理由は不明ですが、SDGsの生物多様性や生態系への関心がその背景にあるのではないかという説もあります。ストローが刺さったウミガメや森林火災で傷ついたコアラの映像などによって社会貢献に対する意識がより高くなったのかも知れません。そして、さらに理由が分からないのが「歯」人気です。今春入試でも、国公立大学の歯学系統は志願者数が伸びていました。受験のプロと言われる複数の方に聞いても、「歯学系は募集人員が少ないので、少し志望者が集まるだけで前年比が大きく伸びる。歯科医師が人気なのではない」という話が返ってくるだけです。その通りだと思いますが、ではどうして少数とは言え志望者が動いているのかが不明です。医学部から一定数が流入しているという説もありますが、以前と異なり、医学部の入学定員は増えており、歯学部に流れてくるとは思えませんので、引き続き注視したいと思います。

私立大の系統人気も同じ傾向、では不人気の系統は?

 私立大の系統別志望動向の見出しは「私立大は女子の理工系志向が鮮明」とあり、国公立大とほぼ同様の傾向です。女子志望者の工学系志向はここ数年、顕著に見られ、河合塾が発行している「Guideline10・11月号」の特集記事に掲載されているグラフを見ると急速に伸びていることが分かります(参考2)。その代わりに急速に減少しているのが「生活科学」です。ここ数年、模擬試験の志望者数だけではなく、入試での志願者数も減少の一途です。生活科学の大半を占めているのは女子大に多い栄養系です。ただ、多くの女子大は、こうした傾向を受けて、すでに改革に向けて大きく動き始めています。改組や新学部設置が女子大で目立つのはそのためです。

 この他に不人気とまでは言えませんが、一時期の勢いが見られないのが「看護」と学際系の「情報」です。看護師需要は依然高いようで、医療関係者に話を聞くと現場では全く人手が足りていないということがほとんどです。この辺りは大人の感覚と高校生の感覚がすれ違うところです。同じようなことはデザイン思考にも言えることで、少し前ですがビジネスパーソンに話を聞けば、デザイン思考やデータサインエンスが重要だという意見をよく聞きました。データサイエンスには高校生も反応したようですが(それも終わりつつありますが)、デザイン思考に反応するケースは多くはありません。この辺りを見誤ると新学部や新学科の設置で成功を得ることは難しくなります。

 なお、学部系統の動向で注目されるのは、私立大の文・人文系の「哲・倫理・宗教」、農学系「酪農・畜産」、国公立大と私立大に共通して理学系の「地学・他」です。これらの系統は募集人員規模が小さいため、少しの動きで倍率が大きく変わります。今後、受験生がどのようの動くのか、あと2~3ヶ月後には答えが出るでしょう。

参考2:【Kei-Net】進学情報誌Guideline
https://www.keinet.ne.jp/teacher/media/guideline/backnumber/2024.html#gl12

来年の18歳人口はなぜ増加しているのか

 前段でも18歳人口が増加したことで、大学志願者数の実人数が増えると書きましたが、河合塾Kei-Net「2025年度入試の受験環境」のグラフを見ても、2025年、2026年、2027年とこの3年間だけ18歳人口が増えています(参考3)
 先日、愛知県のある大学の研究者と話をしている時にどうしてこの3年間だけ出生数が増えたのかという話題になりました。調べて見ると、2006年、2007年、2008年と3年続けて出生数が増加しています。その理由について2010年頃にはいくつか論文が出ていました。第二子目以降の出生数増加が寄与しているという調査もありましたが、その理由は明確にはなっていません。同じ時期にイタリア、フランス、スペインなどでも出生数が増加に転じているという調査結果も出ていましたので、景気の回復と関係がある可能性も示唆されていました。もしそうだとしたら、2008年のリーマンショックさえなければ、高等教育の未来は状況が変わっていたかも知れません。

参考3:【Kei-Net】2025年度入試の受験環境
https://www.keinet.ne.jp/exam/2025/overview/outline.html

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
詳細プロフィールはこちら