文部科学省が毎年公表している「国公私立大学入学者選抜実施状況」には、一般選抜、学校推薦型選抜、総合型選抜などの入試区分別の入試結果に加えて、国公立大学の大学別入試結果も掲載されています。これによると2024年度入試では、国公立大学の募集人員は合計で12万9,488人、入学者数は13万4,226人となっています。つまり入学者数が募集人員よりも4,738人多くなっています。私立大学ではよくあることですが、国公立大学は私立大学の学生募集に大きな影響力を持ちますので、4,000人は大きな数字と言えるのではないでしょうか。

 

私立大学一般選抜の歩留まり率は一貫して低下傾向

 昨年、11月に公表された文部科学省「国公私立大学入学者選抜実施状況」には、一般選抜、学校推薦型選抜、総合型選抜などの入試区分別に志願者数、受験者数、合格者数、入学者数が掲載されています(国立大学、公立大学、私立大学の設置者別)。また、国公立大学については、全ての入試区分の総計ですが、大学別に志願者数、受験者数、合格者数、入学者数が掲載されています。合格者数と入学者数が分かることから、合格した受験生のうちどれだけの人数が入学したかという入学率が計算できます。やや語弊があるものの歩留まり率と言っても差し支えないかと思いますので、以下では歩留まり率と記します。

 全体を集計した総括表<図表1>を見ると国公立大学は合計で志願者数、合格者数、入学者数が前年を上回っています。一方、私立大学は志願者数、合格者数、入学者数が前年を下回り、募集人員に対して1万6,473人不足しています。現在、私立大学の約6割が定員割れしていますのでそれを示す数字です(日本私立学校振興・共済事業団調査)。また、歩留まり率は国立大学93.2%、公立大学82.6%、私立大学32.1%です。例年と傾向は変わらないものの、私立大学の歩留まり率の低下傾向はここ数年続いています。この総括表の数値は、私立大学で併願が多く歩留まり率の低い一般選抜だけではなく、併願に一定の制限があり歩留まり率の高い学校推薦型選抜や総合型選抜の結果も含んでいます。

 そこで私立大学の一般選抜だけを取り出して、その経年変化をグラフにしたものが<図表2>です。グラフを見ると2010年には30%だった一般選抜の歩留まり率は低下を続け、2020年度入試以降は著しく低下しています。コロナ禍での最初の入試は2021年度入試ですので、コロナ禍の影響ではないと思われますが、それにしても今や17%と2010年の半分程度にまで歩留まり率が落ちています。延べ合格者数は減少してはいるものの、それ以上に受験人口の減少と国公立大学の定員増加などが影響していると考えられます。

【文部科学省】令和6年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2020/1414952_00007.htm

【日本私立学校振興・共済事業団】私立大学・短期大学等 入学志願動向
https://www.shigaku.go.jp/s_center_d_shigandoukou.htm

目立つ公立大学の入学定員超過、超過率120%超の大学も

 国公立大学の入学定員超過ですが、2024年度入試結果では国立大学は103%(+2,832人)、公立大学は106%(+1,906人)です。人数は国立大学の方が多くなっていますが、超過率では公立大学が高くなっています。公立大学は前期日程、後期日程に加えて、中期日程を実施したり、国際教養大学、新潟県立大学などのように別日程で入試を実施したりする大学があることから歩留まり率が予想しづらいことがその背景にはあるものと考えられます。ただ、最も歩留まり予測が難しい別日程を実施している国際教養大学の超過率は103%、新潟県立大学は106%にとどまっているのですが、それを超える超過率の大学も見られます。

 公立大学で定員超過率が110%を超えている大学は、2024年度入試では15大学あり、中には122%の大学もあります。公立大学は東京都立大学、大阪公立大学、名古屋市立大学、兵庫県立大学、北九州市立大学を除けば、小規模な単科系大学が多いため、数名~十数名の超過が高い超過率につながります。国立大学でも超過率が110%を超えている大学は1大学ですが、入学定員規模が小さな単科大学ですので、10人程度の超過で110%を超えてしまっただけだと考えられます。

 ただし、同じ地域の私立大学から見れば、地元公立大学が50人程度だったとしても、入学定員よりも多くの学生を取っていることには複雑な思いがあるでしょう。その点で言えば、国立大学は入学定員が公立大学よりも多いため、数%の入学定員超過率でも地域に与える影響は小さくはないと思います。

国立大学の超過分授業料収入は国庫に納付する

 国立大学の場合、定員を超過した分の授業料収入はどうなるのでしょうか。調べてみると、文部科学省の通知(2023年2月3日付「令和5年度以降の国立大学の学部における定員超過の抑制について」)では、「国立大学学部ごとの収容定員超過率が110%以上(小規模学部《入学定員100人以下》は120%以上)の学生数分の授業料収入相当額を、中期目標期間終了時に国庫納付」とあります。一部(留学生等)の学生数はカウントから除外されますが、単純に収入が増える訳では無いようです。

 ただ、この通知をそのまま読めば、定員超過率が110%未満であれば、それは増収分として良いと読めます。つまり、入学定員よりも100名多く入学させたとすると、現在の標準額は年53万5800円ですので、おおざっぱに50万円で計算しても、50万円*100人=5,000万円になりますので、それなりにまとまった金額になります。実は超過人数が100人を超えている国立大学は2024年度入試結果では2大学ありますが、いずれも超過率が110%未満ですので、収入増ということになります。

 よもやその辺りまで意識して入学者を多くしていることは無いと思いますが、<図表2>にあるように国立大学の一般選抜の歩留まり率は平均で92%ですので、歩留まり率を読み誤ることは結構難しいと思います。医学系や理工学系の学部を持たず、独自収入が限られる国立大学の場合は、“読み誤り”によって定員よりも多くの入学者を、110%未満で得ることは、多少の収入増につながるため意図したくなるかも知れません。ただし、同じ地域に立地する私立大学にとっては困ったことです。ちなみに首都圏(1都3県)の国公立大学合計で727人が超過分の人数です。これで直ちに私立大学の学生募集を圧迫しているとは言えないと思いますが、小規模な私立大学からみれば少し分けて欲しい数字です。

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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