2024年12月13日、桜美林大学入学部主催の高大連携合同研修会「探究は大学入試につながる〜失敗しない探究教材の選び方とは?〜」が桜美林大学プラネット淵野辺キャンパス(神奈川県相模原市)で開催された。
2022年の高校の新学習指導要領改訂において桜美林大学が着目してきたのは「総合的な探究の時間」。2019年に、高校生のためのキャリア支援プロジェクト「ディスカバ!」を立ち上げ、高大連携を推進するほか、2021年からは新しい学習指導要領に沿って「探究入試Spiral」を開始し、探究の実践を大学入試につなげる取り組みをしてきた。さらに2023年には「教育探究科学群」を設置している。
新教育課程世代の高校生が大学入学の時期を迎える2025年、総合型・学校推薦型入試の結果にも、こうした流れを読み取ることができる。
今回の高大連携合同研修会は、「探究先進校実践報告」「総合型・学校推薦型入試の最新情報」「高校の探究現場から見えてくること」の3部で構成され、北は北海道、南は鹿児島からと全国より約70名の高校の先生方が参加。各社の探究プログラム教材が自由に閲覧できるコーナーも設置された。このコラムでは、合同研修会での講演内容をレポートしていきたいと思う。
探究先進校実践報告「私立 上野学園中学・高等学校(東京都台東区)」
基調講演には、「総合的な探究の時間」を実践する先進校事例として私立 上野学園中学・高等学校の研究開発部長・進路部長の藤井亮太朗先生が登壇した。
これまでの詰め込み型学習の特効薬ともされる探究学習も、まだ発展途上の段階だと感じてはいるものの、導入当初から比べれば、探究活動を支えるような教材や能力開発も追いついてきたのではないかと話す。
高校の現場からみたときに、同校では大学への進学に際し、一般入試での受験が大幅に減少し、推薦入試の割合が上昇する中、生徒は推薦入試の志望理由に探究活動を必ず入れているという。
同校では、「総合的な探究の時間」において複数の探究教材を場面・環境・到達などの違いや、毎年の学年計画、さらには学年の気質など細かく調整して使い分け、「これをやらねば」ではなく「やってみませんか?」という話を毎年学内で繰り返し、導入するという丁寧なプロセスを経ているのが特徴だ。
藤井先生が、探究教材の中でも第一に事例としてあげたのは、桜美林大学の「ディスカバ!」だった。オールインクルーシブで探究の入り口として楽しく、また大学の教授陣からの後のステップにも繋がるフィードバックがあることも高評価だった。
他には、「考える・書いてみる・発表する」の3段階が揃っているというところで、東京発・400字から世界を変えるスタートアップコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY(TSG)」、興味関心を探究的に深められるとして、様々なコンテンツが用意されている経済産業省の「STEAMライブラリー」や、研究領域の動画等が充実した「「学びのイノベーションプラットフォーム PLIJ STEAM Learning Community」」、鹿島の高校向け探究教材「100年を創造するチカラ」などをあげた。
このように、様々な教材を吟味するとともに、それらの教材を生徒にとって個別最適な探究活動に浸透させていくために鍵となるのは校内における「対話」だとした。
また、探究的な学びのプロセスを経験し、教材活用、対話を繰り返していくと、目に見える形で生徒に変化が出てくる事例として、実際に高校1年の生徒が入学時と、約半年後に作成した研究課題のポスターを提示。比べると、明らかに見た目にも内容的にも充実したものになっている。
実際のスライド
どんなに新しい探究教材を導入したとしても、それまでの教育にどれだけ溶け込ませて活用できるか、再生的に運用していけるかがすごく大切になるのではないかと藤井先生はまとめた。
参加した先生からの「実績をどのように測っているのか?」との質問には、卒業生のデータを収集し、大学の学部での奨学金取得率やGPAなどの平均値を探究の実績としていること、そして奨学金や学部主席を取っている卒業生が増えていることなどをあげた。
また、「校内の先生との温度差に対する工夫について」は、こちらも粘り強く対話を重ねることが大切だと答えた。
上野学園中学・高等学校 研究開発部長、進路部長
藤井 亮太朗先生
総合型・学校推薦型入試の最新情報と桜美林大学の入試状況
次に長年、入試の現場をみてきた桜美林大学入学部部長・学長補佐の高原幸治氏からは、現在の入試状況についての報告がされた。
高校の学習指導要領が2022年から変わり、大学入試にも大学の就職活動で学生たちが経験するコンピテンシーという観点が入ってきているのではないかと指摘する。
高原氏は、文部科学省が出している国公私立大学のどの選抜で学生が入学を各大学にしているかという統計資料から、2000年には7割近くが学力を中心とした一般共通テスト、当時のセンター入試を利用、多面評価型が35%弱だったのに対して、2022年には、それが逆転。おそらく今年は多面評価型が、6割になっているのではないかと話す。
特に、国公立の総合型入試が徐々に増加、さらに学校推薦型や共通テストを利用しなくてもよいかたちが増えていること、そしてやはり少子化が大きく影響していると推測する。
学力評価型の入試への行き詰まりに対して、大学のアドミッションポリシーを満たすような入試を実現させる施策として、桜美林大学では2022年に「探究入試Spiral」を導入した。
「探究入試Spiral」は、プレゼンテーション型とコンテスト型、ディスカバ育成型と3つのタイプを置いている。プレゼンテーション型は高校で実際にやっている探究の取り組みをそのまま大学の入試に素材として使え、コンテスト型は全国で行われているいろいろな大会の成果、もう一つは、桜美林大学が高大連携プログラムの中で提供している「ディスカバ!」に参加して、その成果を評価する「ディスカバ育成型」だ。
「ディスカバ育成型」からは、1次審査免除という特典があるとはいえ、今年度195名という出願があった。その要因については「高校側としては、やはりできるだけ合格させたいのでなるべく安全志向で、また年内での決定を目指して試験を受けさせようという思考が働く」と分析する。また今年度は、総合型・学校推薦型入試でも、昨対で約150%増の出願になっているという。
今後、「探究」と名のつく入試はどんどん増えていくことが予想されるが、名ばかりの入試があることも事実。是非、きちんと生徒の頑張りやプロセスを評価してくれる大学を選んでほしいと話した。
「探究入試Spiral」とは
桜美林大学 入学部 部長 学長補佐(入学・高大連携)
高原 幸治
高校の探究の現場から見えてくること
最後は、桜美林大学入学部高大連携コーディネーターとして、全国の高校をまわり、高校の「探究」の実践をサポートする今村亮氏から、「探究」の実践による進路への影響などの報告があった。
桜美林大学の入学部は、「高校の先生方や生徒さんの役に立つこと」を是として活動を広げている。現在、提携する高校は全国66校に及び、引き合いは後を絶たないといった状況だ。
「『高校時代に探究的な学びを経験してきた新入生は、大学での成長の伸びが高い』という研究結果が、2022年に大阪大学の山下仁司教授から発表され、注目を集めています。大学の学びとは『探究』そのものであり、高校時代の探究が、大学での成長に関係が深いことは納得できる内容です。しかしながら、様々な高校の探究に携わる中で、4割強の生徒は、やはりそうはいってもやらされ感の中で探究の授業を受けている実感値があります」と、今村氏は話す。
やらされ感がある中では、探究はできないのでは?と考えてしまいがちだが、そうではない。「『ディスカバ!』で出会った生徒をみていると、生徒の可能性を引き出すのは、必ずしも生徒自身から自然発生的に湧き出る意欲だけではなく、学校という環境において、ある種、先生からオススメされた題材の中から、生徒が探究の芽をみつけられるかが大切で、それが探究教材の役割なのではないか」と話した。
『高校時代に探究的な学びを経験してきた新入生は、大学での成長の伸びが高い』という研究結果
会場後方には、入学部が集めたという各種の探究プログラム教材が並べられ、参照資料として桜美林大学が制作した「探究プログラム教材10種の比較表」が配られた。
比較表は、各教材の特徴がタイプ別にまとめられ、費用についても有料・無料と様々あることがわかる。提供者がNPOの場合もあれば、探究専門の会社、大手旅行会社によるもの、教材によっては、講師派遣、運営支援サポートがついたり、コンテストの実施までついていたりするものまであった。
当日は探究プログラム教材が並べられ、相談ブースが設けられた
必修化によって、これまでの学習から探究学習へのシフトが迫られる中、実際に現場で生徒たちと向き合う先生方の間では、まだまだ戸惑いも多い。それは、「探究学習」の教材選びのみならず、共に学習・運営を進めていく同じ学校の先生方との合意形成においても問題も悩みもつきないといったところが本音ようだ。今村氏の話にも、やはり藤井先生同様に校内での対話の重要性が聞かれた。
最後に、今村氏に、時間的にも労力的にもハードルの高い「探究」というものに、今回の研修に参加されている先生方はもちろん、多くの先生方が前向き取り組んでいらっしゃるモチベーションはどこにあるのかと尋ねると「探究という時間を通して生徒さんが成長、変わっていく様子を目の当たりにするからではないでしょうか」と答えが返ってきた。それはある種「探究」という教育の本質であるようにも思われた。
文部科学省は、「総合的な探究の時間」の目標を、「課題解決」から「課題を発見し解決」へと発展させている。目に見えているものだけでなく、見えていないものにも気づき、正解のない時代に生きる生徒・学生を育てる探究学習とは、まさに正解のない授業。だからこそ、一朝一夕に成し得るものでもなく、教える側も考え続けることで次世代を担う人材を育てていくことが求められている。
今回の桜美林大学の高大連携合同研修会は、教育の連続性をいかに生徒の成長につなげていくかという視点からも重要な示唆に富んでいた。
桜美林大学では、探究学習に悩む先生方、高大連携や「ディスカバ!」の導入を検討している高校に向けて「いつでも気軽に問い合わせてほしい」と呼びかけている。
ディスカバ!コーディネーター
今村 亮
<本件に関するお問い合わせ先>
桜美林大学 入学部 (町田キャンパス 一粒館)
ディスカバ!事務局 discova@obirin.ac.jp
インフォメーションセンター TEL:042-797-1583