「食により人間の健康の維持改善を図る」という建学の精神のもと、栄養学を生活に活かす「実践栄養学」の教育・研究に取り組んできた女子栄養大学。管理栄養士国家試験の合格率は長年全国トップクラスを誇り、2025年にはデータサイエンスやフードウェルネスを学べる「栄養イノベーション専攻」をスタートさせるなど、栄養学のフロントランナーとして走り続けている。2026年4月には、日本栄養大学へと改称し男女共学化、日本の栄養学を牽引する教育機関としてさらに開かれた大学をめざす。
活躍分野は医療、福祉、行政、教育、企業など多彩
男女共学化により栄養学をさらに社会に浸透させる
「男女が共に学ぶことで多様性が生まれ、社会の中にもっと、栄養学で学んだことを活かす可能性が広がると思っています」。そう話すのは武見ゆかり副学長だ。2026年4月、女子栄養大学・女子栄養大学短期大学部は、性別・年齢・地域・人種といった枠を超え、日本における栄養学の発信地として、男女共学の「日本栄養大学・日本栄養大学短期大学部」へと生まれ変わる。その背景には、食や栄養に対する社会的ニーズの広がりがある。
創設以来、学園全体で約49,000名の卒業生を輩出。活躍分野は医療、福祉、行政、教育、企業など多岐に渡るが、近年、従来女性の多い分野であった管理栄養士や栄養士、養護教諭、家庭科教諭、臨床検査技師などへの男性の進出が進んでいる。フードビジネス分野でも、メニュー開発、商品開発、食品流通、情報提供など幅広いニーズがあり、男女問わず栄養の知識や資格を持つ者が増えることで、新たな視点やアイデアの創出が期待されている。
また長年、アスリートへの栄養サポートなど、科学的根拠に基づいた栄養管理の重要性を広める活動を手掛けているが、選手や指導者からの関心の高まりとともに、多方面から栄養学を学ぶ機会が強く求められるようになった。実際、高校からの要請で栄養学の講座を開催した際にも、男子生徒からの関心の高さ、入学を希望する声が多く聞かれたという。
商品開発から環境問題まで様々なアプローチが可能
アジア諸国からも注目される日本の栄養学
武見副学長に栄養学の魅力を尋ねると、「その日に習ったことが、すぐに活かせる。家に帰るとすぐに役立つ。栄養学を学び始めたとき、食品学も調理学も科学でありながら,これほど生活に直結する面白い学問はないと思いました」と自身の経験を話してくれた。さらに「栄養学は、文理融合で非常に学際的です。複雑なものごとを分解して理解を深めて行こうとする要素還元型のサイエンスであると同時に、生活に関わる様々な要素が複雑に絡む統合型ならではの、選択肢の多い、発展の可能性を秘めた学問だとも言えます」
その言葉通り、栄養学は多様な視点からのアプローチが可能だ。人のからだの仕組みや食品の機能を疾病の治療や予防に活かす個別化栄養、「食べること」を日常生活にどうつなげるのかといった行動科学的アプローチや食環境づくり、保育園や幼稚園・学校・病院・企業などの給食、ライフステージごとの食事や栄養、食物の生産・加工食品などのフードシステム、さらにフードシステムの過程で排出される温室効果ガスは地球環境にも関係する。「本学の強みは、こうした食と栄養に関連した多様なアプローチに対応し得る学びの環境が整っていることです」と武見副学長。その言葉には、長年栄養学の研究に専心し、「栄養」を冠する大学としての自負がうかがえる。
また近年、同大学院にはアジア諸国からの留学生が増えているという。「日本人が健康、長寿である一因が食生活にあると考えられており、総合的に栄養学(Nutrition)を学び、自国の発展に役立てたいという学生が本学を選んでくれているのです」。日本の給食や栄養管理の仕組み、特定保健用食品(トクホ)など日本の食品産業への関心も高いそうだ。「日本でもアジアにおいても、栄養学を修めた人材はまだまだ足りません。その意味でも、開かれた大学として私たちが栄養学に取り組み、果たすべき役割は大きいと考えています」
女子栄養大学の調理実習風景(開設当時)
人が好き、食べ物に興味がある、
クリエイティブな仕事がしたいなら選択肢のひとつに
最後に、栄養学はどんな人に向いているかを尋ねるとこんな答えが返ってきた。
「人が好き、食べ物に興味がある。これらはやはり前提として必要かなと思います。健康にも食べ物にも興味があるというなら、栄養学は学びの選択肢のひとつになるのではないでしょうか。それからもうひとつ。食を通して人の生活をよりよくしたい、何か新しい未来をつくっていきたい、クリエイティブな仕事がしたいと思っている人にも向いている領域だと思います。可能性がいっぱいありますから」
人はただ食事をしているのではない。食事は生活の楽しみであり、人と人とのコミュニケーションの手段でもある。口から食べて栄養を摂ることの重要性や、美味しいと感じる良質な食体験が健康に寄与することも研究で明らかになっている。一方で、生活に対する価値観や食事に求めること、食べ方は多様化している。
「私たちは、栄養学をさらに深化させて、未来にもっともっと生かせるようにしていきたい。様々な要素を考慮しながら、食事や生活、環境などがどうあるべきかを提案したり、商品開発、アプリ開発を行うなど、これまで手掛けてきた以上に、栄養学にできることはまだまだたくさんあると考えています」。様々なかたちで人々の生活に関わっているからこそ、栄養学は学問としての複雑さと面白さ、そして大きな可能性を秘めている。
女子栄養大学
武見 ゆかり 副学長
1981年 慶應義塾大学文学文学科フランス文学専攻卒業
1986年 香川栄養専門学校栄養士学科卒業
1988年 女子栄養大学大学院栄養学研究科栄養学専攻修士課程修了修士
1997年 女子栄養大学 博士
2005年 女子栄養大学栄養学部教授