京都大学の森哲准教授と森直樹教授らの研究グループは、毒ヘビのイツウロコヤマカガシの頸腺を分析し、毒成分がホタル由来であることを発見した。ヒキガエルからホタルへと離れた種間で毒源が移行した例は他にはないという。
毒ヘビのヤマカガシは首背面の皮下の器官「頸腺」にある猛毒で捕食者から身を守る。毒液の主成分は強心性ステロイドのブファジエノライドで、餌とするヒキガエル由来のもの。この様な頸腺を持つヘビは世界にヤマカガシ属17種がいる。中国南西部のミミズを捕食するイツウロコヤマカガシもその一種で、進化の過程で主食をカエルからミミズに変えたとされる。
しかし、主食とするミミズからブファジエノライドは検出されなかった。今回、イツウロコヤマカガシの頸腺の毒成分を分析すると、ブファジエノライドの一種と判明し、さらにその分子構造を解析すると、ヒキガエルではなく北米に生息するマドボタル亜科のホタルに由来する成分と一致した。
そこで、アジア(中国、台湾、日本)に生息するマドボタル亜科のホタル5種を分析。その結果、すべての抽出物からブファジエノライドが検出され、イツウロコヤマカガシ由来のブファジエノライドと構造が類似していた。さらに、イツウロコヤマカガシが実際にホタルを捕食することを確認した。
これは、ヤマカガシ属内でイツウロコヤマカガシへ進化する過程で、カエル食からミミズ食へ食性が変化し、それに伴いヒキガエルではなくホタルをブファジエノライド源にしたことを示す。このように系統的・生態的にかけ離れた餌へ毒源が移行する例は他になく、ヘビの生態や動物の食性変化の研究に新たな視点を提供する成果としている。
論文情報:【PNAS】Dramatic Dietary Shift Maintains Sequestered Toxins in Chemically Defended Snakes