東京医科歯科大学の西村栄美教授(東京大学教授兼任)と森永浩伸プロジェクト助教らのチームは、ミシガン大学や東京理科大学などとの共同研究により、肥満を引き起こす要因が毛包幹細胞に働きかけ脱毛を促進する仕組みを突き止めた。本研究は『Nature』誌にオンライン発表された。日本医療研究開発機構(AMED)とアデランス社の支援を受けている。
加齢に伴う脱毛は典型的な老化形質として知られ、中年期から進行する。疫学調査から肥満が男性型脱毛症の危険因子とされているが、薄毛・脱毛に対する肥満の関与の度合いや仕組みは不明だった。研究グループはこれまで、加齢による薄毛・脱毛が、毛の再生の元となる毛包幹細胞の枯渇によることを示してきた。
本研究では老若両方のマウスに高脂肪食を与えて検証。その結果、3ヶ月以上高脂肪食を摂取したマウスの毛包幹細胞に、酸化ストレス・脂肪滴(過剰な脂質を貯蔵する細胞小器官)・炎症性シグナルが段階的に発生し、幹細胞と毛を再生させる「ソニックヘッジホッグ(Shh)経路」が抑制された。これにより、成長期の毛包幹細胞の分裂時に表皮や脂腺へと分化することで幹細胞の枯渇が進行し、毛包の萎縮を生じて、毛の再生を担う細胞が供給されずに脱毛症が進むことが明らかになった。また、高脂肪食の開始初期からShh経路を活性化し幹細胞を維持した場合にのみ、脱毛症の進行を抑制できることが分かった。
今回、早期予防的介入により毛包幹細胞を維持すれば、脱毛症の進行抑制が可能であることが判明した。今後、幹細胞を中心としたメカニズムの解明によって、脱毛症などの様々な加齢関連疾患の予防・治療に対する新たな戦略が期待される。
論文情報:【Nature】Obesity accelerates hair thinning by stem cell-centric converging mechanism