現在インフルエンザ予防のために広く使用されている「不活化ワクチン(感染性を消失させたウイルスを使用)」は、ワクチンに使用したウイルス株に対しての有効性は高いものの、新しく現れた(新型の)ウイルス株に対しては有効性が低いという問題がある。これに対し、「弱毒生ワクチン(弱毒化させたウイルスを使用)」は新型ウイルスにも有効であることが示されている。

 弱毒生ワクチンがウイルス株を超えて感染を防御できるのは、構造の異なるウイルスにも対抗できる「広域中和抗体」が産生されるためである可能性が考えられているが、そのメカニズムは詳しく明らかになっていない。そこで、理化学研究所、東京理科大学らの共同研究グループは、不活化ワクチンと弱毒生ワクチンで産生される抗体の質的・量的違いを調べた。その結果、不活化ワクチン接種ではワクチンに使用したウイルス株に対抗できる抗体だけが産生されたのに対し、弱毒生ワクチンを模倣した経鼻ウイルス感染では広域中和抗体が産生されることがわかった。

 続く実験で、生きたウイルスの感染が広域中和抗体を産生するメカニズムが次のようにわかった。まず、ウイルス感染により濾胞性ヘルパーT細胞が活性化し、インターロイキン-4(IL-4)産生が誘導される。IL-4の働きで、抗体産生細胞であるB細胞の増殖が促進される。増殖したB細胞の中から、ウイルス株に共通するエピトープ(抗原決定基)を認識するB細胞の選別が進められ、これが広域中和抗体の産生へとつながるとしている。

 本成果は、広域中和抗体を効率よく産生できる生ワクチンの有効性を明らかにしたことで、今後も出現が危惧される新型インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスに対抗するための「ユニバーサルワクチン」の開発に貢献が期待される。

論文情報:【Nature Communications】Influenza virus infection expands the breadth of antibody responses through IL-4 signalling in B cells

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