東京大学大学院工学系研究科の井上智博特任准教授は2月10日、横浜国立大学の伊里友一朗助教・三宅淳巳教授、エクス-マルセイユ大学のエマニュエル・ビエルモ教授と共同で、線香花火の発生・分岐の鮮明な高速度撮影に初めて成功し、主要な化学反応を明らかにしたと発表した。また、火花の挙動を理論的に定式化した。
線香花火は江戸時代から夏の風物詩の一つとして広く親しまれてきた。これまでに火球と火花が周囲酸素との化学反応を通じて発熱することや黒色火薬の反応生成物であるカリウム化合物によって構成されることが明らかになっていた。一方で、出ては消える火花を鮮明に撮影するのは難しく、線香花火を彩る火花については謎に包まれていた。
今回、研究グループは高速度カメラ「Photron SA-Z」を使って線香花火の鮮明な時系列映像を毎秒10万コマで撮影することに成功した。紙縒りの下端にできた火球の表面にはたくさんの気泡が存在する。この気泡が突然弾けて表面張力に駆動された流れが生じ、直径0.1mmの液滴が1m/sの速度で飛び出す。この原理はグラスに注いだシャンパンの泡から水滴が飛び上がるのと同じであり、線香花火のパチパチという音も気泡の破裂音である。この飛び出した液滴の残像が火花に見える。
この観察の結果、火球を飛び出した液滴が最大8回も連鎖的に分裂しながら描く軌跡が松葉火花を形成することが分かった。通常、固体や液体は1・2回分裂すると安定になるため、外的な力を加え続けない限りそれ以上分裂しないのに対して、線香花火では孤立液滴が何世代にもわたって子液滴を作り続ける。論文中では、この新しい分裂形態を successivefragmentation(液滴連鎖分裂)と称し、それによって作られる一連の自己相似現象を directcascade と呼んでいる。線香花火の独特の美しさは、従来知られていた分裂現象とは異なる、液滴の連鎖分裂によって生み出されていたことが明らかになった。
この研究により、江戸時代から親しまれてきた線香花火の美しさを生み出す科学が一つ明らかになった。一方で、火花が分岐せず柳のようになるときの仕組みはまだ解明されておらず今後の研究が期待される。