東京医科大学の井上猛主任教授、森下千尋助教を中心とする研究チームは、入院患者を対象とした症例対照研究を実施し、向精神薬使用と転倒・転落発生との関連性を評価。その結果、睡眠薬使用が転倒・転落の危険因子であることを示し、睡眠薬の処方を可能な限り控えることが転倒・転落発生率の低減につながる可能性があることを示唆した。

 入院患者の転倒・転落は頻度の高いアクシデントで、そのリスクを正確に評価し、リスクを増し得る薬剤の使用を慎重に行うことは重要とされる。向精神薬使用は、その作用機序から転倒・転落のリスクを増す可能性があるとされるが、これまで向精神薬使用と転倒・転落発生の関連性は、明確には評価されていなかった。

 研究チームは、診療記録から収集された信頼性の高いデータを用い、「向精神薬の新規使用者のみを評価するデザイン」を使用することとした。東京医科大学病院の入院患者を対象とし、2016年に転倒・転落した者254名を症例群、同期間に入院した非転倒者254名を対照群とした症例対照研究を実施。向精神薬(抗精神病薬・抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬)使用と転倒・転落発生との関連性を評価し、各クラスの向精神薬使用が転倒・転落の危険因子であるかを検討した。

 その結果、抗精神病薬・抗うつ薬・抗不安薬使用と転倒・転落発生との関連性は統計学的に有意ではなかったが、睡眠薬使用と転倒・転落発生との関連性は統計学的に有意であり、睡眠薬使用は転倒・転落の危険因子であることが示唆された。

 今後は、研究対象者数を増やし、個々の薬剤の使用と転倒・転落発生との関連性を評価し、いずれの薬剤使用が転倒・転落の危険因子であるかを検討したいとしている。

論文情報:【Psychiatry and Clinical Neurosciences】Psychotropics use and occurrence of falls in hospitalized patients: A matched case‐control study

東京医科大学

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