2021年8月、ハイチ共和国で発生し甚大な被害をもたらした地震では、住民宅に設置された「市民地震計」が捉えたデータによって震源域や余震活動の詳細が迅速に明らかにされた。
この地震による犠牲者は2,500名以上、負傷者は12,000名以上にものぼる。ハイチでは、2010年にも推定10万人以上が犠牲となった大地震が発生しており、こうした大地震発生時に迅速かつ的確に地震の発生状況を把握することは課題だ。
そこで、2019年から、フランスの研究グループが中心となり、市民参加型の地震観測社会実験プロジェクトがスタート。この取り組みでは、ラズベリーシェイクと呼ばれる低コストでメンテナンスが簡単な地震計を、希望する市民宅に設置し、観測データをインターネット経由で収集して地震活動の把握に活かす試みとなっている。
今回、東北大学災害科学国際研究所の福島洋准教授が参加した、フランス・ハイチ・ペルー・日本・米国・スペインの機関から成る国際共同研究チームでは、この「市民地震計」のデータを使って2021年8月の地震の解析を行った。国が運用している地震計は最も近いものでも震源から120km離れていたのに対し、「市民地震計」は震源から数十km以内に複数あり、最も近いものは21km地点にあった。解析により、今回の震源域は2010年の地震の震源域と離れていること、余震が二つの領域に集中して起こっていたことなどが迅速に明らかとされた。
さらに、衛星データを用いた解析と組み合わせることで、今回の地震が「北側の地盤が南側の地盤の上に乗り上げる形の逆断層すべり」を伴った地震であったことが確かめられ、地震ハザードマップおよび建造物の耐震設計基準の刷新につながる重要な知見が得られたとする。
本研究により、公的な観測システムが不十分な途上国であっても、市民地震観測網が地震発生状況の把握や重要な知見の獲得に資することが示されたといえる。
論文情報:【Science】Citizen seismology helps decipherthe 2021 Haiti earthquake