西太平洋・パラオ共和国にある無人島の熱帯雨林で、陸に上がったウミウシが世界で初めて見つかりました。ウミウシは殻を失った巻き貝の仲間で、浅い海や川の底に生息し、世界中に分布していますが、この島で陸上生活に適応したようです。発見した東京大大気海洋研究所の狩野泰則准教授、福森啓晶海洋科学特定共同研究員らのグループは、英国ロンドン・リンネ協会の学術誌「バイオロジカル・ジャーナル」に発表します。

歩く陸生ウミウシ(体長約5mm)※プレスリリースより引用

歩く陸生ウミウシ(体長約5mm)  ※プレスリリースより引用

見つかった陸ウミウシは3個体で、ともに体長約5ミリ。ナメクジ型の体と、一対の黒い眼、短い触角を持ち、背中が濃い灰色、頭と足が薄い灰色をしています。動作は緩慢で、1秒に約0.1ミリの速さで進みます。石灰岩や落ち葉の下でアリやカタツムリの卵と一緒に見つかったことから、昆虫や卵を食べているとみられます。解剖とDNA塩基配列調査の結果、巻き貝の仲間が殻を失ったスナウミウシ類の特徴を示しました。さらに2009年にタイのマングローブ林で発見された昆虫食のウミウシに近いことも明らかになりました。陸ウミウシはナメクジのように陸上で殻を失ったのではなく、殻を失ったあとで海から陸に上がったと考えられています。

海のスナウミウシ類が単純な構造の腎臓を持ち、その開口部から尿を出すのに対し、陸ウミウシは腎臓から長い腎管を通って排出します。この腎管には陸上生活で不足しがちな塩分を尿から再吸収する働きを持つようです。海のスナウミウシ類はプランクトン幼生として孵化し、成長と変態をしてウミウシの姿になりますが、陸ウミウシは親と同じ姿で生まれます。

陸ウミウシがいた無人島は湿気が多い熱帯雨林に覆われています。ナメクジや地上の大型動物が生息しておらず、競争相手や捕食者がいません。こうした点がウミウシの陸上進出を可能にしたとみられています。

※ウミウシ 軟体動物門腹足綱(巻き貝の仲間)に属する後鰓類のうち、貝殻が縮小、消失した種の総称。スナウミウシ類、無楯類、ヌディプレウラなどが含まれます。

出典:【東京大学大気海洋研究所】陸ウミウシの発見

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