東京大学、京都工芸繊維大学、電気通信大学らのグループは、歩行者の主観的な混雑感が「理想的な歩行速度」と「現実の歩行速度」とのギャップによって生じるとする新たなメカニズムを明らかにした。
安全性や快適な歩行環境の確保を目指す歩行者研究において、従来は混雑感の物理指標として主に「密度」が採用されてきた。しかし、実際に密度指標が歩行者の主観的混雑感と一致するという実験的検証はなく、また速度など他の物理指標との比較もなされてこなかった。
そこで本研究者らは、歩行者集団実験において、物理指標として「周辺密度」と「歩行速度」を計測し、同時に心理指標として「主観的混雑感」をアンケートにより調べることで、初めて両指標の関係を検証した。
その結果、歩行者の主観的混雑感を推定する上では、密度よりも速度の方が優れていることが明らかとなった。実験からは、「密度が大きいほど混雑感が大きくなる」という従来研究通りの関係も得られたが、「歩行速度が小さくなるほど混雑感が大きくなる」という関係の方が、より明確に観測されたとしている。
さらに、同じ速度で歩いていても、普段の歩行速度が速い人(一般に男性と若者)は遅い人(一般に女性と高齢者)よりも混雑を感じやすい傾向が認められた。すなわち、自身の理想的な歩行速度と実際の歩行速度のギャップが存在し、普段通りの速さで歩けないほど、歩行者は混雑を感じる可能性が示唆された。
本研究成果は、密度で混雑感を推定する従来学説よりも正確に混雑感を測定・予測するために役立つ知見となり、快適な都市・交通施設の設計や群集マネジメントに資することが期待される。