奈良先端科学技術大学院大学と株式会社国際電気通信基礎技術研究所の共同研究グループは、強迫症(強迫性障害)のメカニズムを計算論モデルで明らかにした。

 強い不安を伴う“強迫観念”と、それを一時的に軽減するために過剰な繰り返し行動を行う“強迫行為”で特徴づけられる強迫症は、その発症メカニズムはおろか治療(行動療法および薬物療法)が効果を発揮するメカニズムさえも解明されていない精神疾患である。これに対し、本グループは計算論的アプローチにより強迫症の仕組みを明らかにすることを試みた。

 より価値が高い行動を選択しやすくなるように脳が行う学習とされる「強化学習」に着目し、強化学習のプロセスをある種の計算とみなした計算論モデルを作成した。この計算論モデルで様々な学習パラメータを用いながらシミュレーションや解析を行ったところ、「どのくらい過去の行動までを学習に関連付けるか」という特性を表す学習パラメータが極端にアンバランス(現在の結果が予想より悪かった場合のパラメータが、予想より良かった場合のパラメータよりも極端に小さい)であるときに、いつのまにか強迫症状が学習されてしまう可能性があることがわかったという。

 実際に強迫症患者の学習パラメータを選択課題で計測して推定したところ、計算論モデルの予測通りに、健常者と比較してアンバランスな学習パラメータを示すことが確認されたとしている。さらに、第一選択の治療法となる行動療法・薬物療法については、強迫観念があっても強迫行為をしないことを練習する行動療法で強迫症状を改善できることが計算論モデルのシミュレーションで見出されたほか、治療薬であるセロトニン再取り込み阻害薬の投与量を増やすほど学習パラメータのアンバランスが解消されるという関係性を見出すことに成功した。

 これらの成果は、強迫症状と治療法の根本メカニズムの理解に大きな進展をもたらしたといえる。今後、治療前に学習パラメータを評価することによって、患者の特性に応じた治療の最適化に応用できる可能性もある。

論文情報:【Cell Reports】Memory trace imbalance in reinforcement and punishment systems can reinforce implicit choices leading to obsessive-compulsive behavior

玉川大学

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