国立環境研究所、岩手大学、猛禽類医学研究所、NPO法人どうぶつたちの病院沖縄、岐阜大学を中心とするグループは、独自に開発した手法を用いて、日本国内に生息する絶滅危惧種である、ヤンバルクイナ、ライチョウ、シマフクロウ、ニホンイヌワシからiPS細胞(人工多能性幹細胞)を樹立した。絶滅危惧鳥類のiPS細胞樹立は世界初となる。

 現在、国内には多数の絶滅危惧種が生息し、鳥類では98種が絶滅危惧種として指定されている。保全策として、生息域内保全と細胞の凍結保存も含めた生息域外保全を一体として進める統合型が提唱されている。野生動物の感染症や汚染物質によるリスク評価には、神経細胞や肝細胞が適しているが、生体の使用は困難なため取得できるのは皮膚や筋肉由来の体細胞だ。そこで、研究グループは筋肉などの細胞から樹立可能なiPS細胞に着目した。

 鳥類のiPS細胞の樹立に、マウスやヒトに適用する方法は使用できない。研究グループは以前、ニワトリのiPS細胞の樹立に成功していたため、その成果を発展させて、転写活性を強化した遺伝子をヤンバルクイナ、ライチョウ、シマフクロウの体細胞に同時に導入した。その結果、iPS細胞の樹立が確認され、これらのiPS細胞から神経様細胞への分化にも成功した。さらに、ニホンイヌワシのiPS細胞の樹立にも成功した。

 野生動物を大量死に導く要因には感染症や汚染物質による中毒があげられる。今回樹立したiPS細胞を肝細胞様細胞や神経様細胞に分化し、実験に利用することで、感染による死亡リスクや汚染物質の毒性等に関する高度な評価が可能になり、さらに、発生・生殖・繁殖等の研究に応用できれば、絶滅危惧種保全研究の新展開が期待されるとしている。

論文情報:【Communications Biology】Induced pluripotent stem cells of endangered avian species

大学ジャーナルオンライン編集部

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