理化学研究所の升本英利上級研究員らの研究グループは京都大学大学院と共同で、心臓血管手術に伴う腎臓障害モデルマウスに冬眠様状態を誘導する実験を実施。低体温にしなくても腎機能障害を部分的に予防できることが分かった。将来的に、ヒトの心臓血管手術時の超低体温法に代わる新たな臓器保護法として期待される。
大動脈手術など循環停止を必要とする心臓血管手術では、手術中の虚血による術後の臓器機能不全が問題となる。特に、急性腎障害は術後の主要な合併症で死亡率の上昇と関連する。循環停止中の臓器保護法として、20℃以下の超低体温による低代謝誘導が用いられているが、低体温は術後の出血や感染症のリスクを高める可能性がある。
マウスは通常の状態では冬眠しない非冬眠動物だが、砂川上級研究員らは2020年に、脳の視床下部にある特定の神経細胞(Q神経)を刺激すると、マウスを冬眠様状態にできること(Q神経誘導性低代謝:QIH)を発見した。これは、非冬眠動物であるヒトも冬眠様状態に移行できる可能性を示す。
今回、共同研究グループは、Q神経の活性化により代謝低下(冬眠様状態)を誘導するマウス(QIHマウス)と対照マウスそれぞれに正常体温群と低体温群を設定し、大動脈遮断による腎虚血を誘導した後、腎臓障害の程度を評価した。その結果、QIHを誘導した腎臓虚血モデルマウスでは、低体温にしなくても腎機能障害を部分的に予防できることを明らかにした。
今後、ヒトにQIHを誘導する手法が開発できれば、将来的には循環停止を伴う心血管手術において低体温で循環停止させずに、十分な腎臓保護を実現するための有望なアプローチとなる可能性があるとしている。