麻布大学の度会晃行博士課程学生らの研究チームは、慶應義塾大学・北海道大学・熊本大学と共同で、ハダカデバネズミの群れでは、自身は繁殖しない働きネズミが女王の妊娠期の糞を食べて母性を高め、女王が仔を出産後にそのベビーシッターとなることを発見した。
ハダカデバネズミは厳しい半乾燥地帯の地下にトンネルを掘り、数十匹の群れで暮らす。数匹のオスと女王と呼ばれる1匹のメスだけが繁殖を行い、他のメス個体は卵巣が発達せずに性的に成熟しない。これは哺乳類では珍しい社会構造で真社会性と呼ばれる。女王は出産して授乳するだけで、働きネズミが協調的に子育てを行う。しかし、本来養育行動は妊娠の過程で卵巣から分泌されるエストロゲンによって獲得されるが、卵巣が未発達でエストロゲンをほとんど合成できない働きネズミが母性をどのように高めてベビーシッターとなるのかは不明だった。
研究チームは、ハダカデバネズミの日常的な糞食に着目。メスの働きネズミに妊娠期の女王の糞を9日間食べさせると、給餌終了から4日後のテストで仔ネズミの鳴き声に対する反応性が高まった。またエストロゲンを添加した授乳期終了後の女王の糞を給餌しても仔ネズミの鳴き声に対する反応性が高まった。働きネズミにエストロゲンを経口摂取させると、女王の産後期に見られた仔ネズミの鳴き声への反応性の高まりを再現できたため、働きネズミは自身では合成できないエストロゲンを女王の糞から受け取って母性を高めていると考えられる。
このようなホルモンが糞を介して他個体に作用し行動を変化させるコミュニケーションはこれまでに報告がなく、ホルモン作用の新たな概念を提供する発見だとしている。