北海道大学と東北大学の研究グループは、イヌ悪性黒色腫に対する治療において、免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-L1抗体治療の開始前に放射線治療を行うことで、治療効果が増すことを明らかにした。
ヒト医療では、悪性黒色腫や肺がんをはじめとする様々な腫瘍において、免疫チェックポイント阻害薬による免疫療法で良好な治療成績が報告されている。また、放射線療法と免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせが、がん患者において強力な全身性の抗腫瘍免疫を誘導することが、近年の臨床研究で示唆されている。
イヌにおいても、本グループが世界で初めて開発したイヌ用免疫チェックポイント阻害薬(免疫チェックポイント分子の一つであるPD-L1を標的としたイヌキメラ抗PD-L1抗体)が、腫瘍の退縮をもたらすなど有効性を報告したが、奏効が得られるイヌは一部にとどまっている。そのため、今回、悪性黒色腫に罹患したイヌにおいて放射線療法と抗PD-L1抗体の組み合わせがより良い治療効果に繋がるかを検討すべく、特に予後が悪い肺転移を持つ口腔内悪性黒色腫のイヌについて回顧的に解析した。
解析対象は、これまでに抗PD-L1抗体による治療を行ったイヌ39頭で、そのうち放射線治療(Radiation Therapy:RT)の影響がない「RTなし群」20頭、抗PD-L1抗体治療開始前に放射線治療を受けていた「RT前治療群」9頭、抗PD-L1抗体治療と放射線治療がほぼ同時期に行われた「RT同時治療群」3頭の3群を比較した。
その結果、「RTなし群」と比較して「RT前治療群」は抗PD-L1抗体治療開始からの全生存期間が有意に長く、肺転移巣に縮小・維持を認めた率(臨床的有用率)も有意に高かった。一方、「RT同時治療群」は「RTなし群」と同等であり、統計学的な有意差を認めなかった。
以上から、放射線治療を免疫チェックポイント阻害薬の開始前に適用することで、より良い治療効果が得られる可能性があることが明らかとなった。本研究成果は、イヌの腫瘍に対する新しい治療法の提供に繋がるとともに、ヒト腫瘍の治療モデルとなることも期待される。