北海道大学大学院の小川宏人教授らの研究グループは、コオロギの逃避行動を詳細に観察し、歩行中に脅威刺激を受けると、逃げ出す前に一時停止することを発見した。

 動物は同じ刺激を受けても、その時の外部環境や、動機の強さ・生体リズムなどの内部状態により起こす行動を変化させる。中でも運動中かどうかは行動に大きく影響する。ヒトの場合には、ランニング中の認知課題の成績悪化などが報告されている。しかし動物の動きを全く制限せずに同じ刺激を繰り返し与えて、行動への影響を調べることは困難だった。

 そこで研究グループは、共同開発したサーボ型球形トレッドミル装置(通称「無限平面装置」)を使用。自由に運動させながら同じ刺激を繰り返し与えることを可能にした。コオロギを自由に歩行させて方向や強さを精密に制御した短い気流刺激を与え、生得的行動である逃避行動を調べた。

 その結果、コオロギは自発的歩行の最中に刺激を受けると、たいていすぐに一時停止し、その後、逃避行動を起こした。しかも、静止中には反応しない弱い気流刺激にも停止し、高確率で逃避反応を示した。刺激への感受性を高めることで、逃げ出すまでの遅れを保障している可能性がある。また、運動中の逃避反応では逃げる距離や速度は静止時と違いはないが、逃げる方向が静止時より不正確だった。

 一般に動物は、運動中の方が捕食者に見つかりやすい。そこでコオロギは、運動中に脅威刺激を受けると、まず一時停止して捕食者の目を逃れている可能性がある。研究グループは今回、他の動物にも見られるこの「凍り付き反応」を、コオロギも捕食者に対する行動戦略の一つとして採用している可能性を初めて示した。

論文情報:【iScience】Motor state changes escape behavior of crickets

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