科学技術振興機構が進める戦略的研究推進事業の中で東京大学大学院の染谷隆夫教授らは導電性を持つ新型のインクを開発し、これを用いた布状の筋電センサーを作成することに成功しました。インク状の材料をプリンタで印刷することで非常に簡単に細かい回路を作成することができます。このインクを使って布地に回路を印刷するだけでスポーツウェアに筋電センサーを搭載することにも成功しました。
通常の電子部品は巨大な製造装置の中で何回ものプロセスを経て、シリコンのような固体の上に回路を形成していました。この方法で作られる部品は布のような繊維素材の上に配線や電極を形成することはできませんでした。一方で布の上に形成可能な導電性の材料もいくつか開発されています。しかし、わずかに伸ばすだけで伝導性が落ちたり破断してしまうという欠点がありました。また、別の材料ではこれらの課題はクリアしているものの10回以上の加工が必要な上、細かい回路の作成が困難でした。
染谷教授のグループでは以前からフッ素系ゴムと銀フレークを溶剤に溶かすことで導電性のインクの開発に成功していました。ところがこれはわずかに伸ばしただけで破れてしてしまうものでした。今回の研究ではこれに界面活性剤を混ぜることで、高い導電性を維持したままゴムのような伸張性を獲得したのです。これによりプリンタで布に回路を印刷するだけという非常に簡単な過程で、耐久性が高く精密な電子部品を作成できるようになりました。
この研究成果は2014年ごろから急速に企業の注目を集めているウェアラブルデバイスの可能性を大きく広げることでしょう。低コストでスポーツ、ヘルスケア、医療などの分野での利用が期待されています。将来は着るだけで心拍数、体脂肪率、筋肉率などの体の様々な生体情報や健康状態を計測してくれるスポーツウェアができるかもしれません。