熊本大学大学院生命科学研究部の田中靖人教授、渡邊丈久助教、林佐奈衣特任助教らの研究チームは、抗HBV(B型肝炎ウイルス)作用を示す新しい機序の薬剤「SAG-524」を開発した。

 HBVは肝臓に感染するDNAウイルスで、一度感染すると完全に排除することが難しく、B型慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌などの肝疾患の主要な原因の一つとなる。現在の第一選択薬である核酸アナログ製剤は、HBVの設計図であるHBV-DNAを強力に抑制するが、B型肝炎の治療目標である、HBs抗原(B型肝炎表面抗原)の血中からの消失を指す“機能的治癒(Functional cure)”の達成は単剤では困難である。

 本研究チームは、HBs抗原を効果的に阻害し機能的治癒を達成する新規治療薬を求め、3万種類の化合物の中からいくつかの候補薬剤を見出した。さらに、これら候補薬剤の最適化を経て、新規薬剤「SAG-524」を開発した。この薬剤は、HBV-RNAを特異的に不安定化し、分解されやすい状態にすることで、HBs抗原及びHBVの複製を阻害する新しい作用機序を持つ。非常に低い濃度でHBs抗原とHBV-DNAを大幅に低減させることが可能だとしている。

B型肝炎モデルマウスを用いて、SAG-524と核酸アナログ製剤の併用による抗HBV効果を検討した結果、核酸アナログ製剤単剤投与時よりもHBV-DNAをさらに低下させたとともに、HBs抗原の低下が確認された。また、マウス・サルを用いた安全性試験では、SAG-524を超高用量(1000mg/kg/日)投与した場合でも、明らかな毒性を認めなかったとしている。

 SAG-524は経口投与が可能であり、従来の核酸アナログ製剤との併用療法で上乗せ効果も確認されたことから、B型肝炎の機能的治癒を目指した新しい治療の選択肢として期待される。現在臨床試験に向けた準備が進んでいるという。

論文情報:【Journal of Gastroenterology】A novel, small anti-HBV compound reduces HBsAg and HBV-DNA by destabilizing HBV-RNA

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