藤田医科大学など、世界7カ国・計131名の研究者による国際共同研究で、脳のpH(水素イオン濃度)および乳酸量の異常が多様な精神・神経疾患モデル動物において共通の特徴であることがわかった。
これまでの研究で、統合失調症や双極性障害などの精神・神経疾患患者では、グルコースなどの糖を分解してエネルギーを産生する代謝の過程に異常があることが示唆されている。結果として、糖の代謝産物である乳酸が増加し、脳のpHが低下する(酸性に傾く)とされている。
本研究グループは、統合失調症、発達障害、双極性障害、自閉症のモデルマウスにおいて、脳のpH低下・乳酸量の増加が共通して観察されることを、先行研究で見出してきた。しかし、その他の精神・神経疾患動物モデルにおける脳内の変化は、系統的に解析されてこなかった。そこで今回、知的障害、うつ病、てんかん、アルツハイマー病など、著名な精神・神経疾患を含む、実に109種類のモデル動物の脳のpHおよび乳酸を測定し、大規模な包括的解析を実施した。
その結果、約30%で脳のpH低下・乳酸量増加という共通の現象を見出し、疾患間で共通して脳の代謝異常が生じている可能性を発見した。
一方、健常な動物でも、心理的ストレスを与えたうつ病モデルマウスや、うつ病の併発リスクが高い糖尿病や腸炎のモデルマウスで脳のpH低下・乳酸量増加が見られたという。すなわち、脳のpH・乳酸量は、環境要因が原因で後天的に変化することが考えられるとしている。
また、モデル動物の行動パターンとの関連を調べると、認知機能障害と脳の乳酸量変化が強く相関していることを確認した。中でも、作業記憶と呼ばれる認知機能の低下は、乳酸量の増加と深く関連し、乳酸が増加しているモデル動物ほど、作業記憶を反映する迷路テスト課題での正答率が悪かったという。
以上により、脳のpHおよび乳酸量の変化が、さまざまな精神・神経疾患に共通する脳内メカニズムであるとともに、行動レベルでの機能的意義も持ち、認知機能障害と関連することを示唆した。本成果は、既存の疾患分類の枠組みを超えた、新たな病態研究を発展させることが期待される。