立命館大学、ニューヨーク大学、横浜国立大学、筑波大学、東京大学、インディアナ大学の研究チームは、2023年に社会問題となった旧ジャニーズ事務所性加害問題に係るニュースメディア、ソーシャルメディアX(旧Twitter)での議論の盛り上がりをビッグデータから分析し、以下の世論形成のダイナミズムを明らかにした。
旧ジャニーズ事務所性加害問題は、2023年3月のBBC報道の後、Xユーザがいち早く取り上げた。スキャンダル糾弾が多数派となり、その後、ジャニーズ事務所を擁護するコアなファンによるハードコア層が生まれた。ハードコア層とは、少数派であってもかたくなに自分たちの意見を表明しようとするグループのことだ。
これは多数派意見の逆転現象だ。問題が可視化しないうちは少数派だった旧ジャニーズ糾弾の世論が、主要メディアの報道後に多数派となった。そして今度は旧ジャニーズを擁護する世論が少数派となった。
自分の意見が多数派と一致していると認識すると、意見を公に表明する傾向が強まるという理論を沈黙のらせん理論という。一方、同意見ばかりの閉じたコミュニティ内では意見が過激化・固定化されるという現象をエコーチェンバーという。今回、旧ジャニーズ事務所への考え方をめぐってファンが分断され、批判・中立・擁護など各エコーチェンバーが形成された。少数意見でも周囲で類似意見が可視化されて、孤立の恐怖を感じにくくなり、意見を発信しやすくなった。
少数意見を不可視化するとされていた沈黙のらせんが、インターネットの現代ではむしろ少数意見を増幅する装置として機能していた。今回の研究では、複数の世論をどう捉えればよいのか、そのヒントが得られたとしている。