東京大学の研究グループは、連続フロー反応により抗アルツハイマー薬メマンチンの連続合成に成功した。
小分子医薬品は、製造コストが比較的安価で、大量生産も容易なことから、依然として高い需要がある。一方で、多くの小分子医薬品の主成分(原体)の製造を海外に依存している日本では、国内製造での安定的供給の実現は容易ではない。
このような背景のもと、生産効率を最大限に引き出すためには、原料や添加剤などを反応器の一方から投入すると同時に、反応器の一方から生成物を取り出す反応による「連続フロー分子変換法」を用いた連続生産が有用である。本研究では、特徴的な「アダマンタン」と呼ばれるダイヤモンド構造を持つ抗アルツハイマー薬「メマンチン塩酸塩」の基本構造の合成を取り上げ、これまで極めて困難だった連続合成を達成した。
本研究により、かつては合成が困難な炭素小分子とされていたアダマンタン骨格が、多環性芳香族化合物アセナフテンを原料として、2段階の連続フロー反応により連続的に得られることが見出された。アセナフテンを望みのアダマンタンに変換するためには、アセナフテンの安定な芳香族構造の完全水素化と、生成する多環性飽和炭化水素骨格を強酸により骨格転移させることが必要である。これらを、温和な条件で芳香族化合物を水素化できる高機能触媒を使用した連続フロー芳香族水素化反応と、強酸を複合化したイオン液体を使用するフロー骨格転移反応を利用して達成した。さらに、続くラジカル的ニトロ化、ニトロ化合物水素化も加えた4段階合成反応により、アセナフテンを原料とするメマンチン合成に成功した。4工程のいずれも、原料と試薬をカラム型リアクターに投入すると目的生成物が排出される連続フロー法からなる。
本手法は、従来法に比べて二酸化炭素の排出も大幅に削減でき、国内での小分子医薬品の少量・多品種生産に適したクリーンな方法として期待される。