東京農工大学、浅間山カモシカ研究会、麻布大学からなる共同研究チームは、これまでその機能が知られていなかったニホンカモシカのため糞(トイレ)について、新たな機能を持つ可能性を明らかにした。
様々な哺乳類で、繰り返し特定の場所に排泄してため糞(トイレ)を形成する習性が確認されており、群れ生活をする群居性の有蹄類(牛や馬など)ではため糞が匂いを介してオスのなわばり宣言に使用されることがわかっている。一方、群れではなく単独で生活する単独性の有蹄類では、ため糞がどのような機能を持つのかほとんどわかっていない。
そこで本研究では、代表的な単独性の有蹄類であるニホンカモシカを対象に、ため糞の分布と利用状況を調査した。
まず、カモシカのため糞はなわばりの境界に沿った分布をしていないことがわかった。また、隣接してなわばりを構える同性間では、ため糞が共有されていなかったことから、カモシカのため糞はなわばり宣言には使われていないことが示唆された。
次に、雌雄ともに、発情期後期(12~1月)に、ため糞への訪問頻度が高まることを発見した。メスのため糞場での排尿は、この時期にのみ確認された。オスも、例数は限られるものの、この時期にため糞の匂いを嗅ぎ、フレーメン(匂い刺激に反応して唇を引き上げる生理現象)をおこなうことが観察された。以上から、メスはため糞を通じてオスに発情状態を宣伝し、オスもこの情報を受け取ろうとしている可能性が考えられるという。
交尾の時期(9~11月)のカモシカは、雌雄で行動を共にするが、交尾期後半になると、発情する可能性を残しながらも、雌雄は別々に行動するようになる。また、メスの尿には、発情状態を伝える匂い成分が糞よりも多く含まれている。これらのことも、オスとメスがばらばらで生活する発情期後期に、ため糞を通じてメスからオスへ発情状態をアピールしているという可能性を支持するとしている。
今後は、個体数やデータの数を増やし、カモシカの匂いを介したコミュニケーションの全貌を明らかにすることが望まれる。