芝浦工業大学のリチャーズゲーリー准教授らの研究チームは、早稲田大学と物質・材料研究機構との共同により、可逆的な酸化還元反応によって可視から近赤外・短波赤外領域へと蛍光をスイッチできる有機色素材料の開発に成功した。
近赤外蛍光分子は、低エネルギーかつ生体組織内での透過性が高いため、バイオイメージングや疾病の診断技術への応用が期待されている。しかし、軽元素からなる有機分子では、励起エネルギーが熱失活しやすく、赤外発光を得るのは困難とされてきた。
研究チームは今回、電子受容性に優れたピラジナセン骨格に電子供与性のトリフェニルアミン基を導入した新しい有機色素を開発し、可視光(VIS)から近赤外(NIR)・短波赤外(SWIR)領域までの発光を単一分子内で可逆的に切り替えることに成功した。
これらの分子は、還元状態では可視領域で強く発光し、酸化されると発光波長が大きく低エネルギー側へ移動し、近赤外(NIR~SWIR)領域に到達する。この発光スイッチングは、化学反応だけでなく電気化学的にも達成でき、しかも構造変化は最小限(1つの6員環内の電子状態変化)のみで完結するという、これまでにない分子設計だ。また、C‒H結合が存在しないピラジナセン構造を採用することで、熱失活を抑制し、NIR領域でも比較的高い発光量子収率が得られた。
この分子設計戦略により、電荷移動の活用と赤外蛍光材料開発に合理的な合成指針が提供できる。疾患関連の酸化還元環境を可視化する蛍光プローブの開発や、電気化学的スイッチング素子への応用も可能だ。ピラジナセンの構造は他のドナー・アクセプター系にも応用でき、今後は分子設計の多様化により性能向上が見込まれるとしている。